作家の下重暁子さん
作家の下重暁子さん
写真はイメージです(Getty Images)
写真はイメージです(Getty Images)

 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、年齢でくくりがちな日本社会について。

【図版】年齢は関係ない?統計上、75歳以上に多い身体の不調とは

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「70歳以上 女性の4人に1人」という記事が、敬老の日の朝日新聞一面に出ていた。高齢者が増え続けている。

 今後もこの傾向は続き、第二次ベビーブーム世代が高齢者となる二〇四〇年には、三五%を超えるかもしれないという。

 長生きになることは結構なことだが、それにしては社会の仕組みが追いついていない。

 まず、呼称である。後期高齢者などという呼び方はもはや通用しなくなっている。私もその一人だが、なぜ後期だの前期だのと年齢でくくられなければいけないのか。実に不愉快である。同じ思いの友人知人は数多く、みな現役でいきいきと仕事をしている。

 私も今年八十四歳になったらしいのだが、そんな自覚は全くない。若い頃よりも疲れやすくはあっても元気で毎日原稿書きに追われている。

 子供の頃は結核で二年休学したり、放送局で仕事をしていた時は偏頭痛で苦しめられたから、神様が可哀そうに思って今頃になって元気にしてくれたとみえる。

 仕事をしているから元気だともいえる。物忘れ、特に漢字など忘れやすくはなったが、忘れたらすぐ調べてインプットする。

 毎日文字と向き合うから、辞書は手ばなせない。ネットも使うけれど、できるだけ手間のかかる方法で調べると忘れにくい。簡単に憶えたものは簡単に忘れる。

 自分では六十代ぐらいの意識しかなく、新聞の死亡欄を読むと、自分より下の人なのに「あら、いい年だったのね」と自分のことは棚に上げて呟いている。

 そこでお願いがある。新聞に年齢を書くのをそろそろやめていただけないか。

 名前に続けて(〇歳)と必ず書いてあるが、高齢者がこんなに増えては全く意味がない。欧米のメディアでは年齢を書くことはほとんどないと、アメリカで活躍した日本人歌手が言っていた。

 日本へ帰ったら、ことあるごとに「いくつ?」と聞かれ、年齢を書かされ、年齢でくくられている感じがして憂ウツになると。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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新聞記事になぜ年齢が掲載されるのか