東京・渋谷を流れる渋谷川 (撮影/写真部・掛祥葉子)
東京・渋谷を流れる渋谷川 (撮影/写真部・掛祥葉子)

 作家でコラムニストの亀和田武氏は、東京の暗渠を特集した「東京人」10月号を取り上げる。

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 冷房なしでは眠れない夜がまだ続いている。そんなときだからこそ、人は地下を流れるひんやりした水の気配に思いを馳せる。

「東京人」(都市出版)10月号の特集は<東京暗渠(あんきょ)散歩>。副題は“まちの記憶を旅する”だ。かつては「川や水路が張り巡らされ、水のネットワークを形成して」いた東京だが、「瓦礫処理や宅地化により水面は徐々になくなり暗渠」と化した。

 暗渠マニアックス(!)と散歩好きのミュージシャン、それぞれ2人ずつが集まり、渋谷川の開渠部分からスタートし、宇田川遊歩道を経て初台の源流まで歩くルポは題して“地下の流れに耳をすませば。”だ。暗渠ビギナーも楽しめる好企画だ。

 渋谷川の“開渠”部分という言葉に少し驚く。これまで暗渠化していた渋谷川が、渋谷ストリームの開業により姿を現したから“開渠”か。開渠に「暗渠の蓋を開くこと」の註がある。

 宇田川の遊歩道を知ったのは30年以上前だ。「広大なNHKの敷地と並行する宇田川遊歩道は、暗渠の魅力がわかりやすく詰まったおすすめの散策路だ。たとえば、グネグネした蛇行など」とある。

 この10年は通行者も増えたが、以前は古びたアパートや無住とおぼしい家が点在する、廃墟感ただよう道だった。若者で賑わうセンター街のチョイ先に、静謐さと荒涼感あわせもつエリアがあるとは渋谷も奥が深い。そう思ったら、この一帯は“奥シブ”と呼ばれるようになった。

 地下に潜む暗渠をどうやって知るか。「車止めや橋の跡、マンホールの多い道、道幅が不自然に広い歩道」などがあれば、それが暗渠サインだという。

 蛇崩(じゃくずれ)川、羅漢寺川、六間堀など、名前にも怪しげな気配や存在感があるのも暗渠の特徴だ。何か変。でも楽しそう。東京の地下世界はワンダーランドだ。

週刊朝日  2020年9月25日号