常盤貴子さん (撮影/写真部・掛祥葉子)
常盤貴子さん (撮影/写真部・掛祥葉子)
「海辺の映画館-キネマの玉手箱」撮影中の大林宣彦監督(右から2人目)(c)2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
「海辺の映画館-キネマの玉手箱」撮影中の大林宣彦監督(右から2人目)(c)2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
20年ぶりに故郷・尾道で撮影した、大林版“ニュー・シネマ・パラダイス”(c)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
20年ぶりに故郷・尾道で撮影した、大林版“ニュー・シネマ・パラダイス”(c)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

 4月10日に82歳で亡くなった大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館‐キネマの玉手箱」が7月31日から公開される。1970年代から新たな映像の世界を切り開いてきた先駆者の最後の作品には、ハッピーエンドの処方箋ともいうべき映画の魅力がつまっている。ライター・坂口さゆり氏が綴る。

【写真】撮影中の大林宣彦監督

*  *  *

 舞台は尾道の海辺にある唯一の映画館「瀬戸内キネマ」。今夜のオールナイト上映をもって映画館は閉館する。最後のプログラムは「日本の戦争映画大特集」。映画青年の毬男(厚木拓郎)と映画歴史マニアの鳳介(細山田隆人)、チンピラの茂(細田善彦)は、突然劇場を襲った稲妻の閃光(せんこう)に包まれ、気づけばスクリーンの世界にタイムスリップしてしまう──。

 鳳介を演じた細山田さんを始め、出演した多くの俳優が「まさにキネマの玉手箱というべき作品」と言う通り、驚くような映画体験ができるはず。今作が連続3作目の大林映画出演となる常盤貴子さんも言う。

「映画という概念すらも超えてしまったと思いました」

 大林監督は東日本大震災の後、「この空の花‐長岡花火物語」「野のなななのか」「花筐/HANAGATAMI」と、「戦争」というテーマ性を強く打ち出した作品を作ってきた。今作はさらに深化。戦争を、一見相いれないエンターテインメントを通して描く。

「大林組の現場は俳優たちにとっても独特の雰囲気がある」と常盤さんは言う。

「大体一人で何役も演じること自体、普通の映画ではありえない。その時点で、監督の『さぁ、楽しくなるよ~』と言う笑顔が思い浮かび、台本をもらった俳優たちは想像できない撮影が始まるであろう予感に、皆ブルブルッと震えたんじゃないでしょうか」

 常盤さんが本作で演じたのは、物語の核となる広島で原爆の犠牲となった移動劇団「桜隊」の看板女優・園井恵子がメインだが、計6役を演じた。ダンサーとして軽やかなタップダンスも披露。聞けば、今回一番のチャレンジがそのタップだったと振り返る。

「大林監督から『次回作のためにタップダンスを練習しておいてください』と言われた時は、内容もわからず、監督に言われるままに撮影の1年前くらいから練習を始めました。どのくらいレッスンに通ったかわかりません。途中で撮影が延期となり、いつどうなるかもわからない状況でしたが、練習はみんなでずっと続けていたんです。それだけに、撮影が決まった時の喜びは忘れられません」

次のページ