「飲食店が自粛を続ける首都圏や近畿圏から、福岡や愛知など繁華街を抱える地方都市への移動を試みる人は、今後一定数出るものと思います。北海道では2月下旬に独自の緊急事態宣言を出していったんは感染者を大きく減らしましたが、3月半ばの宣言解除後、2~3週間して感染者が再び拡大した。都心からの移動者に感染者が交じっていれば、北海道同様に地方で再び感染が広がる可能性はある。宣言解除後も、症状の有無に関わらず自分が『感染源になりえる』という自覚を個々人で持ってほしい」

 今回の政府のアナウンスでは、宣言が解除された地域でも「3密」を避けるなどの「新しい生活様式」が求められる。この展開には、飲食店などの側にも戸惑いがあるようだ。

 九州最大の歓楽街、中洲の屋台「博多屋台中洲十番」は緊急事態宣言の解除を受けて、自粛していた営業を16日から再開した。店長の田中博臣さんは「自粛の反動で人が集まったら、感染のリスクが高まる」と懸念する。同店では厨房とカウンターの間にアクリル板を設置。満席にしない、従業員にマスクを配布するなどの対策を講じる予定だ。

 飲食業界だけでなく、商業施設やライブハウス等も「満員御礼」を避けなければいけないという変則的な経営を強いられる。5月15日には東証1部上場の老舗アパレル企業レナウンが破綻するなどすでに経済にも深刻な影響が出ているが、緊急事態宣言の解除を機に回復に向かうのか。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストはこう語る。

「当面は、営業活動を徐々に再開しながらも、新たなクラスターが発生しないように客入りを制限するなど、ブレーキとアクセルを使い分ける方法が必要になる。すぐに経済がV字回復することは見込めないでしょう」

 ワクチンが開発されるなどしない限り、こうした状況の長期化は避けられそうにない。そうした新しい環境に適応していくしか道はないということだ。

「たとえば、店舗でお客の数を半分にしないといけないならば、家賃や人件費などの固定費が現状のままでは重すぎる。飲食店ならデリバリーやテイクアウトも拡充するなど、『ウィズコロナ』の時代に適したアイデアが必要になってくる。地域によっても状況はまったく違うので、全国一律の対応を求めるのではなく、自治体ごとに対応を考えていく必要があります」(矢嶋氏)

 コロナとの「持久戦」では、国による一律の対策というよりも、個々人や地域ごとの工夫や結束が試されることになりそうだ。すでに多くの地方自治体で、独自の動きが始まっている。(本誌・池田正史、松岡瑛理、吉崎洋夫/今西憲之)

週刊朝日  2020年5月29日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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