安倍晋三首相 (c)朝日新聞社
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週刊朝日2020年5月29日号より
週刊朝日2020年5月29日号より

 8都道府県を残し緊急事態宣言が解除された日本。“全面解除”も視野に入るが、そこには常に「第2波」の恐怖がつきまとう。

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「今後、徹底的なクラスター対策を講ずることで、感染拡大を防止できるレベルにまで抑え込むことができたと判断いたしました」

 安倍晋三首相は5月14日の記者会見でこう語り、「特定警戒都道府県」に指定されていた茨城・岐阜・愛知・石川・福岡の5県を含む39県の緊急事態宣言を解除すると発表した。一方、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、京都、兵庫、北海道の8都道府県については「ピーク時の6割まで重症者が減少したが、まだリスクが残っている」として、引き続き宣言を継続する。21日をめどに各地域の感染状況を再度評価し、一定の基準をクリアする地域については順次、解除していく構えだ。

 当初予定された5月末から前倒しでの一部解除。低迷する経済への影響を考慮したと考えられるが、ある自民党幹部は、こんな事情もあったと推測する。

「当初、緊急事態宣言の解除はもう1週間ほど先だと聞いていました。首相に近い関係の河井克行前法相について、検察が公職選挙法違反の疑いで立件する方針を固めたと報じられた。さらに国会で審議中の検察庁法改正案に対する抗議がSNS上で収拾がつかないほどに盛り上がり、政権のマイナスイメージに追い打ちをかけた。緊急事態宣言の解除をぶつけることで、印象を何とか払拭したいという狙いがあったのでは」

 何はともあれ、約1カ月にわたり続いた自粛が緩和される。安堵の声がある一方、今回の解除で第2波の感染拡大を生むのではないかという懸念の声もあがっている。

「国外の事例も念頭に置いて、宣言解除後の対応を考える必要があります」と話すのは、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師だ。

「中国・武漢や韓国は厳格な対策を行い感染拡大の『封じ込め』に成功した国と見られていました。しかし、ソウルの繁華街のクラブで100人以上のクラスターが発生するなど新たな感染者が相次ぎ、第2波が始まったとの見方もある。日本でも同様の展開になる恐れは十分にありますし、今後、これらの地域からの入国規制が緩和された場合、再びウイルスが持ち込まれる可能性もあると考えたほうがいいでしょう」

 感染症・渡航医学を専門とするグローバルヘルスケアクリニック院長の水野泰孝医師も、国内の第2波感染拡大の恐れは十分にあると予測する。懸念するのは都心部から域外への移動者が増加し、そこから感染が拡大する可能性だ。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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