行定監督は「男の自我の愚かさは一般社会にもあふれている」と言い、部長昇進でライバルに先を越された友人の例を話してくれた。その友人はなんで俺が部長じゃないんだと奥さんに八つ当たりをして、三下り半を突き付けられた。奥さんが頭に来た理由は、夫に「お前たちのために頑張ってきた」と言われたからだったという。

「奥さんから見れば、旦那が打ち込んできたことを一生懸命支えてきたわけですよね。『劇場』の二人も同じです。愛し合っているのに何で傷つけ合うのか。実はこれが男と女のどうしようもなさなんですよ」

 映画化にGOが出たのは、名乗り出てから3カ月目のことだった。そこから脚本完成まで9カ月。これでやっとキャスティングということになるが、主役の永田のイメージに合う役者が浮かばない。そんなとき、本作のプロデューサーから意外な役者を提案された。

「それが山崎賢人でした。永田のイメージとは違うきれいな顔だちをしている彼の写真にぼさぼさの髪とヒゲを描き足したら、すごく色気が感じられた。きっとこれまでは、永田みたいな役のオファーが来なかっただけで、彼に自由にやってもらったら面白くなるのではないかと感じました」

 さっそく彼が出演している映画「キングダム」を観に行くと、たった一つだけ違和感を発見してしまったという。

「奴隷の役なのに、歯がね……キレイすぎた(笑)。山崎と最初に会ったときも言いました。歯がキレイだねって。あと『ヒゲ、生える?』って。いきなりそんなこと言われてビックリしたかもしれないですね」

 しかし、次に会ったとき、山崎の歯はもう真っ白ではなかった。コーヒーを飲んだりして黄ばむようにしたという。おまけにヒゲまで伸ばしていた。何より行定監督を驚かせたのはその目だった。

「最初に会ったときに『目が濁ってるんだよね』と主人公のイメージを話したら、虚ろな目をして現れ、明らかに目つきが違った」

 ヒロイン・沙希役の松岡茉優の役作りにも驚いた。

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