「15年も前の作品で、ヒットしたわけでもないのに、最近やたらと若手の映画関係者から『好きだ』と言われる(笑)。僕がこの映画で描きたかったのは、他人から見たらどうでもいい話だけれど、登場人物たちから見たら切実でどうでもよくない話。そういう話のほうが、観た人が身につまされると信じているんです。何も起きない世界がなぜ面白いのか。それは役者の演技が面白いからです」

 今回の「劇場」も何ものでもない若者の物語だが、試写を観たあるプロデューサーが興奮して、電話で「ウチもこういう映画をちゃんと作らないとダメだと思った」と言ってくれた。

「どういうことかというと、そこには作りたくても作れない事情があるんです。“数字”という目標があるから、冒険できないんです。インディーズ映画で小さく作るならできるのですが、商業的なことを考えると、どうしても安全で確実なネタを探してしまう。それでは面白い映画になるはずがないと思うんです」

 一方で、自分は社会派ではないとも言う。

「やっぱり、何も起こらない日常が僕にとっては面白い。だから、取材して事実に基づいて緻密に撮る社会派の人とは違う足跡を映画界に少しでも残せたらいいと思っています」

 公開まで1カ月を切った段階で、監督の仕事はキャンペーンやインタビューを受けることが中心になる。

「でも、この期間は嫌いではないんです。映画を観た人の意見を聞けるから。もちろん、いい感想を聞きたいという気持ちはありますが、マイナス意見も聞きたいんです。なぜなら、批判的な意見を聞くと、僕は次回作でその人を見返してやりたいっていう気持ちになる。大げさに言えば、次回作はその人に向けて“どうだ!”というものを作りたいくらい(笑)。人は傷ついただけ強くなれるでしょ? 傷ついていない人って意外と弱いんです。とはいえ、やっぱり『劇場』のいい評価がツイッターとかに上がらないかなぁって思ったりもしますね(笑)」

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