そこで、目標を立てた。

「5年後、70歳でエベレストに登頂する」

 まず手始めに、札幌市内にある藻岩山(531メートル)に登ってみた。

「観光客が楽しみながら登る山なのに、僕は息が切れて駄目。途中で動けなくなって諦めたんです」

 エベレスト登頂どころの話ではない。しかし、三浦さんは諦めなかった。

「ゼロからのスタートだと思っていたけど、とんでもない。マイナスからのスタート。でも、僕はへそ曲がりだから、マイナスからスタートして目標を達成するほうが、面白いんじゃないかと思いました。僕は昔、エベレストで滑落して、99%死ぬ状況だったのに運よく命拾いしました。ほかにもいろいろあり、何回死んでもおかしくなかった。でも、生きているんです。もともと無責任な楽天主義者なので、5年あるんだから、まあなんとかなるだろうと」

 肉体を戻すために、左右の足首に1キロの重りをつけて生活をするようにした。外出時には、10キロほどの荷物を入れたリュックを背負って歩いた。仕事でスーツ姿のときも、それを通した。

 半年後に富士山に登頂。負荷を年々重くし、5年目には足に各10キロ、背中に30キロにまでなった。

 03年、目標を達成した。エベレスト山頂に立ったとき、何を思ったか。

「75歳になったら何をしようか、と思いましたね。過去のことはすっかり忘れて、次の目標を考えました」

 75歳、80歳でも、エベレスト登頂に成功した。

 その三浦さんの闘争心を支える薬がある。80歳でのエベレスト挑戦の前、骨折してトレーニングが積めずに体力が落ちたとき、男性のアンチエイジングの研究者から助言を受けた。

「男性ホルモンの注射とシアリス(ED治療薬)をすすめられたんです。2週間くらいしたら朝、まるで高校生みたいになっちゃって(笑)。精神面にもとてもよく効いて、前向きで攻撃的な気持ちになります。意欲の落ちている方は試してみるといいですよ」

 今も夢がある。

「90歳でアコンカグアか、(アフリカ最高峰の)キリマンジャロ(5895メートル)の登頂です」

(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2019年12月6日号