なんと東洋だけでなく西洋でも中庸は重んじられていたのです。中庸は中間であるが、質の異なった徳の次元であるというのがいいですね。単なる中間でなく、それ以上のものなのです。

 明代の洪自誠の著作『菜根譚』(講談社学術文庫、中村璋八・石川力山=訳注)にも、中庸についての記述があります。

「清廉潔白であるが、一方では包容力もあり、いつくしみ深いが、一方では決断力にもすぐれている。また、賢明ではあるが、人の考えを批判したりせず、正直ではあるが、他人の行為をとやかく言い過ぎない」

 このような人物を中庸の徳をそなえた人だと説明しているのです。

 なるほど、たいしたものです。中庸の徳を備えた人物がイメージできます。こうした徳を若い頃に身につけるのは無理でしょう。むしろ、若くしてそんなタイプは優柔不断で中途半端な人物だと思われます。

『菜根譚』はこうもいっています。

「人の心を楽しくさせるような魅惑的な事柄は(中略)ほどほどにしておけば、(徳を失わず)後に悔いることはない」

 歳を重ねてこそ、ほどほどを知ることができます。その利点を生かして、是非、中庸の徳を深めましょう。

週刊朝日  2019年11月15日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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