「このケースでは、お父さんが存命中に何らかのアクションを起こすべきでした。次男の特別受益を考慮して遺言で長男に多く財産を残すとか、経済的な余裕があるのだから、長男に生前贈与をして次男とのバランスを取っておくこともできたはずです」(福田さん)

■出来のいい兄の息子だけ両親があからさまに溺愛

 会社員の男性(51)の両親は共働きだったこともあり、連日、趣味のゴルフにダンスにと優雅なリタイアライフを送っている。男性には二つ年上の兄がいるのだが、気になるのは両親が高校生になる兄の息子ばかりをかわいがり、お金を注ぎ込んでいることだ。

 甥が兄の息子とは思えない容姿と頭脳の持ち主であることは認めざるを得ないが、両親は幼少時からこの甥の習い事や学習塾の費用、有名私立校の学費など少なからぬ金額を援助してきた。“孫びいき”があまりに露骨なため、男性の妻や2人の娘などは近年、男性の実家に寄り付かないほどだ。

 妻からは時折、嫌みを言われるが、男性は事を荒立てたくないので静観していた。しかし最近、父親が体調を崩して入院し、生命保険証書を探しに実家を訪れた際、両親の預貯金が思いのほか少ないことが判明し愕然とする。

 男性一家は妻が専業主婦、娘2人は私立高校に通っており、家計は毎月火の車。住宅ローンの返済に手いっぱいで老後資金など貯める余裕はなく、裕福な親の遺産に期待していないといったら嘘になる。だからこそ、「いざ相続となったら、甥に援助してきた分は配慮してもらえるのだろうか」と不安を募らせている。

「このケースだと甥はご両親の相続人にはならないので、甥への資金援助は特別受益には当たりません。男性にしてみれば『本来は兄が払うべき甥の教育費を両親が負担している』とお考えになるかもしれませんが、孫の教育費の贈与が子どもへの特別受益とみなされることはないのです」(前出・福田さん)

 しかし、状況が変われば特別受益になることもあるという。例えば両親が孫と養子縁組をする場合、そして兄が親よりも先に亡くなる場合だ。いずれのケースでも、甥が相続人の枠の中に入ってくるため、以降の資金援助は特別受益とみなされる可能性が高い。

 福田さんはこう続ける。「『子どもへの財産分割は平等に』というのはあくまで理想論であって、現実には不平等な事例のほうが圧倒的に多い」

 親子の相性の問題もあれば、子どもの“経済格差”に配慮した結果、特定の子どもの取り分が多くなることもある。

「そもそも親のお金をどう使おうが親の勝手です。このケースでも、将来この男性だけが親の介護を押し付けられるようなことがあるなら話は別ですが、そうでなければ親の懐にはあまり期待しないほうがいいのではないでしょうか」(同)

(ライター・森田聡子)

週刊朝日  2019年11月8日号より抜粋