瀬戸内寂聴「救急車から見た人世の縮図」 (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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瀬戸内寂聴「救急車から見た人世の縮図」

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週刊朝日
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。『場所』で野間文芸賞。著書多数。『源氏物語』を現代語訳。2006年文化勲章。17年度朝日賞。

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。『場所』で野間文芸賞。著書多数。『源氏物語』を現代語訳。2006年文化勲章。17年度朝日賞。

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。(写真=横尾忠則さん提供)

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

【横尾忠則さんの写真はこちら】

*  *  *
■横尾忠則「人生色々 体が半ばサイボーグ化」

 セトウチさん

 深夜、東京の街を救急車が、サイレンを鳴らしながら走る。その救急車の中で横たわっているのは私。鼻、口、指先にチューブを差し込まれたまま、激しい揺れに時々、バッタみたいにベッドから跳びはねそうになります。救急車は無謀に他の車を制御してわがままに走ってくれます。カッコイイ、一体誰が乗っているんだろうと想像させるでしょう。

 ただの83歳の老人です。一時間ほど前に突然喘息発作が起こり、時間の概念がないほどの高熱のために、こうして搬送されているのです。救急車の内部は機械の中身みたいで窓ひとつありません。ヘルメット、手袋、懐中電灯、ロープ、時計などが天井や壁にくっついています。

 窓のひとつくらい開けてくれれば、どの辺を走っているのかが見当がつき、「もう少しだ」と安心するのですが、そんな安心材料はありません。

 むしろ、救急病院に運ばれてからの方が何が起こるのだろう、何をされるのだろうという不安の方が大きいです。

 待機していた病院の救急処置をするナースの人達がベッドを移動しながら物凄く手際良く処置します。「付き添いの人は中に入らないで下さい」とシャットアウトされて、中で何が起こって、何をされるのか不安が極限に達します。素早く集中治療室のようなところに運ばれて、点滴が腕にさされ、鼻の粘膜をとられ、鼻、口にチューブを差し込まれ、指には常時酸素計量器をつけられて、パンツを下ろされて股間部に何やら「痛い」ことをさせられて、これが何の検査か誰も説明しません。男女五、六人の若い医師と看護師が目まぐるしく動き回っています。若い男性の医師はどういうわけか全員がイケメンで小泉進次郎タイプばかりです。パンツを下ろしたりするのは若い看護師です。病人は物体(オブジェ)です。なんだって平気でやります。


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