ピーク時の03年には年間販売台数が約14万台に上ったが、昨年はわずか7千台ほどという。

 落ち込みの要因として、まるもさんはキューブの致命的な弱点を挙げる。

「ユーザーが求めるものとして、ここ2、3年で急速に安全装備などの需要が増えましたが、キューブはこれに対応してこなかったんです。衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキさえついていない。今や軽自動車ですら、これがついていない車はそれほどありません。安全性を求める流れに乗り遅れてしまったのが大きかったと思います」

 高齢者運転の事故の増加など、安全装備への需要が拡大する中、モデルチェンジへ踏み切れなかったのはなぜか? まるもさんは、「開発担当者に詳しく聞かないとわかりませんが」と前置きした上で、こう考える。

「キューブのようにフロントマスクの面積が大きい車は、衝突被害軽減ブレーキにしろ、カメラやレーダーにしろ、付ける上でデザインとの両立が難しかったのではないでしょうか。デザインを捨てて安全性能を付ければ、キューブがキューブでなくなってしまうとも言える。そうしてモデルチェンジに踏み切れないうちに、ユーザーの選択肢から外れていったのでは」

 まるもさんは、キューブの生産終了に一つの時代の終わりを感じると言う。

「日産に限らずトヨタもホンダも、1990年代半ばぐらいから色々なバリエーションのコンパクトカーを作り、車種を増やしました。ユーザーもその中から自分の好みに合ったものを買って楽しんでいましたが、今は生産効率、コストパフォーマンス、コンパクトカーの役割としてフットワークの良さなどを求める時代。遊び心やバラエティー色を求める時代じゃなくなっちゃったんだな、と感じます」

 もう一つ、自動車業界全体の大きな波があるという。

「軽の台頭です。キューブと比べても、下手するとN-BOX(ホンダ)やデイズ(日産)などの軽のほうが、後ろの足元スペースが広い。そうなると、維持費も安くて燃費もいいから軽で、となる。安全性も高くないとなると、なお一層です。昔はヴィッツ(トヨタ)、フィット(ホンダ)、マーチ(日産)がコンパクトカー御三家でしたが、今は売れているのはフィット、頑張っているのがヴィッツという感じで、マーチは完全に軽に食われました。食い込んできているのは、シエンタ(トヨタ)のようなスライドドアを持つコンパクトカーぐらいですね」

 ユーザーの志向変化、性能を上げる軽自動車の勢いなどに追いつけなかったキューブ。

 記者も1年間の地方勤務の際に愛用していたが、傾斜の少ないフロントガラスで視界を確保でき、自室のような空間はストレスがなく、初めてのマイカーとしては最高の選択だった。

「個性が強い車は寿命が短い場合が多い。3代続いたのは頑張ったほうですよ」とまるもさん。街中で見られなくなる日も遠くないが、愛車として乗っているユーザーには、ぜひ最後までキューブとのカーライフを楽しんでほしい。(本誌・緒方麦)

※週刊朝日オンライン限定記事