前田:そうなんですか? 僕、林さんの『野心のすすめ』はメッチャクチャ心に刺さりましたけどね。
林:でも、前田さんは年齢が近いからスッと入っていけるということもあるんですよね。まだ31歳でしたっけ? もともとはすごいエリートなんですよね。早稲田の政経学部を出て、外資系の投資銀行に行って。
前田:いやいや、それだけ見るとエリートっぽく見えちゃうんですけど、ぜんぜんそんなことないです。東京といっても葛飾出身ですし。
林:親御さんを早くに亡くしたんですよね。
前田:父は僕がもの心ついたころにはいなくて、母は8歳のときに亡くなって。
林:ふつうだったらグレるけど、ちゃんと大学にも行ったんですね。
前田:道を踏みはずさなかったのは、兄のおかげだと思いますね。僕、小5の終わりごろにけっこう大きく怒られるようなことをやってしまって、兄貴が見たことないぐらい号泣したんです。それで「兄貴を幸せにしなきゃ」と思って、変わりました。
林:お兄さんは自分が大学に行くことをあきらめたんでしょう?
前田:兄貴は医者になりたかったんです。本当に頭がよくて、医学書とか読んでずっと勉強していました。でも、兄貴が高校3年生の夏にお母さんが死んじゃったので、医者になることをあきらめて……。
林:今からでも遅くないかもよ。うちの秘書のお兄さん、会社勤めしながら勉強して、47歳のときに弘前大学医学部に受かりましたよ。
前田:えっ……。
林:もっとすごいのは、お兄さんに娘がいて、彼女もお父さんが受かる前年に弘前大学医学部に入ってるんです。お父さんより一足先に。
前田:ものすごくいい話ですね。それ、兄貴に提案してみようかな。
林:ぜひ。まだ遅くないですよ。すいません、話を途中で折ってしまって。
前田:いえ、ありがとうございます。話を戻して、母が亡くなって、僕の存在があったから兄ちゃんが医者になれなかったことは事実なんですよね。一緒にハローワークに行って、カウンターで求人が入ったファイルをポンと渡されて、兄ちゃん、ファイルを開いていちばん最初にあった仕事を、「これお願いします」と言って、今日もその仕事に行ってるんです。今41歳だから、18歳から23年間ずっと同じ仕事をしてるんですよ。