劇作家、演出家としての顔も持つ小手さんは、自分の劇団では主に、心理学や神話、精神世界をモチーフにした作品を発表している。特に、古事記には造詣が深い。

「00年代初頭に、野田秀樹さんに舞台やワークショップでお世話になったとき、野田さんが、『被爆した町・長崎で生まれたことを、アイデンティティーとして作品作りに活かしたい』というようなことを話されていて、自分にはものづくりのルーツが何もないことに気づいて、愕然とした。精神世界が好きならせめて日本人の物書きとして一番古い神話まで遡ってみよう、と。古事記とはそこからのお付き合いです(笑)」

 ユーモアと知識を武器に、ドラマのみならずバラエティーでも活躍する彼が考える“演劇”の魅力とは?

「ドラマやバラエティーも、“誰かを楽しませたい”という純粋な気持ちで作っていて、作り手の熱量は演劇と何ら変わりはない。ただ、演劇は、観客も一緒に作品を作ることができるんです。“面白いものを届けたい”ではなく、“一緒に作りたい”という感覚に近い。それがテレビとの違いです。今日やったことと明日やることが違うかもしれない。そのライブ感は、何ものにも代えがたいです」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年4月5日号