■フレイルを“自分ごと”にしてもらうには

 フレイルという言葉は比較的順調に普及していますが、まだ知らない人が大勢いることも事実です。フレイルの予防・対策のためには、まずより多くの人にフレイルを知ってもらうことが第一歩。そのために一部の自治体では、フレイルに関する市民公開講座を実施しています。

 これまでも、健康をテーマにした市民公開講座では、「できるだけ体を動かしましょう」「食事バランスを意識しましょう」といった話をしているでしょう。これは、健康長寿のために大切な原点ですが、今や誰もが知っている当たり前のことでもあります。参加者も聞き飽きているため、まったく心に響かないのです。フレイルの講座では、この当たり前の話を参加者に「へぇ~」と思わせる、つぼを押さえた話をしています。

 例えば、体を動かすという話をする時には、「高齢期における2週間の寝たきり状態の生活によって、7年分の筋肉を失います」という話を加えると、会場内がどよめきます。

 あるいは、タンパク質に関して次のような話から始めます。「体重60キロの人は、1日に80~90グラムのタンパク質をとることを推奨されています。タンパク質の王道といえばステーキですが、200グラムのステーキに、何グラムのタンパク質が含まれていると思いますか?」。6~7割の人は、200グラムのタンパク質が含まれていると思っているようです。しかし、一般的には35グラム程度しか含まれていません。

 また、年齢が上がるにつれて、同じ量のタンパク質を摂取したとしても、筋肉に変える効率が落ちていきます。そのため、高齢になるほどより積極的にタンパク質をとる必要があるのです。この話をすると、皆さんとても驚かれます。このように、切り口を変えてリアリティがある話をすることで、自分ごととして強い関心を持っていただけるのです。

■軽視できないオーラルフレイル

 フィジカル・フレイルの中でも、口腔機能に関するものが「オーラルフレイル」です。滑舌の低下や噛めない食品の増加、食べこぼし、むせといった日常の「お口に関するささいな衰え」は、オーラルフレイルのサイン。普段の生活において、一つひとつは深刻なトラブルではないため、そのまま放置してしまいがちです。しかし、それらのトラブルが重なることで、要介護につながる負の連鎖に陥りかねないのです。

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噛む力や滑舌の状態で死亡リスクに違い