東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢医師(本人提供)
東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢医師(本人提供)

 滑舌の低下や噛めない食品の増加、食べこぼし、むせといった日常の「お口に関するささいな衰え」は、オーラルフレイルのサインといわれます。それらのトラブルが重なることで、要介護につながる負の連鎖に陥りかねません。「口から考える認知症」と題して各地でフォーラムを開催するNPO法人ハート・リング運動が講演内容を中心にまとめた書籍『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』では、東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢医師が、フレイル、オーラルフレイルについて解説しています。

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 フレイルとは、「虚弱」を意味する英単語「frailty(フレイルティ)」から生まれた言葉で、2014年に日本老年医学会が提唱した新しい概念です。人は高齢期になると、心身の機能や活力が衰えます。衰えが進み、健康と要介護の中間となる「虚弱」の状態をフレイルといいます。フレイルの最大の特徴は「可逆性」です。要介護度の場合は一度上がってしまうと、下がることはありません。一方、フレイルの場合は、もし陥ってしまったとしても、対策を講じることで健康な状態に戻ることができるのです。

 また、フレイルは「多面性」も特徴です。一つは、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)やサルコペニア(筋肉減少症)などの身体の衰え=フィジカル・フレイル。二つ目が、うつ、認知機能の低下といった精神の衰え=メンタル・フレイル。この心身の衰えに加えて、閉じこもりや孤食のような社会性の衰え=ソーシャル・フレイルという三つの側面があり、これらが複合的に絡み合っているのがフレイルなのです。フレイルを放置すると、健康長寿を達成できる可能性が低くなります。早い段階でフレイルを発見し、対策を講じることがとても重要になります。

 フレイルの予防・対策に関しては、すでに国家プロジェクトになっています。安倍内閣は、「ニッポン一億総活躍プラン」の「10年先の未来を見据えたロードマップ」の中で、元気で豊かな老後を送るための取り組みとして「高齢者に対するフレイル(虚弱)予防・対策」を掲げているのです。

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