40代のカップルは、すでに日本大会の全イングランド戦と決勝戦のチケットを購入済みだという。2カ月近い滞在となり、「日本各地、特に大分に行くのも楽しみ。温泉があるんでしょ?」と言う女性に、夫婦でラグビー好きなんて素敵ですね、と伝えると、「あら、私たちは夫婦じゃないわ。ラグビー友達よ!」。どうやらこのパブ、ラグビーを通じて友人になった人々が多いようだ。

 じつはこの日は、イングランド代表と日本代表の国際試合(テストマッチ)。8万2千人を収容する世界最大のラグビー専用競技場、トゥイッケナム・スタジアム周辺では、試合の何時間も前から集まった人々が、やはりビールを手に談笑していた。ここではなんと、1日に30万パイント(17万リットル強、350ml缶ビールで約487万本)のビールが売れた記録があるという。会場だけで1人平均缶ビール6本とはなんとも恐れ入る。

 ラグビーでは、観客席がホームとアウェイに分かれていない。異なるレプリカユニフォームを着たファンが隣り合った席で応援するのだが、けっして騒ぎが起きることはないと聞く。足元に大きなビアカップをいくつも並べているイングランド人の姿も多数見られたが、試合そっちのけで飲んだり、大声で騒いだりする観客はいなかった。競技にスピード感があって目まぐるしく戦況が変わるので、グラウンドから目が離せないことも理由のひとつだろう。

 イングランドが劣勢に陥ると、どこからか発生した歌声がうねりのように会場に響いて圧倒される。この「スウィング・ロー(Swing Row, Sweet Chariot)」という曲はアメリカの黒人霊歌だが、90年代にファンが歌いだしたことがきっかけとなって、次第にイングランドラグビーの歌として定着したものだそう。ビールを片手に見知らぬ人とも肩を組みあって大声で歌うさまを、少し羨ましく感じた。
 
 世界ランキング11位(当時)の日本は同4位(当時)のイングランドを相手に前半をリードして折り返したものの、猛追を受けて残念ながら敗北。試合終了後、グラウンドで選手たちが互いに称え合う姿には、単なる形式以上のものが感じられた。選手たちはこの後、「アフターマッチファンクション」と呼ばれる、両チームが共に飲む時間を持つのが習慣だそうだ。

次のページ