

まるでバブル時代のような活況だった。
東京・新橋から銀座に抜ける線路沿いの道、全長約400メートルのコリドー街は、金曜になると、一流企業に勤める若い男女の出会いの場になる。そんな噂が噂を呼び、今では「新・ナンパの聖地」になっているという。
「9時すぎくらいからナンパが盛んになる。けっこうな確率で成功しているみたいですよ」(バー店員)
男性は30代、女性は20代が中心というこの“戦場”で、50代男性編集者が若い女性をナンパするという無謀なチャレンジを試みたら……。
* * *
編集部の誰もが「勝ち目のない無謀な挑戦」と噂している気がする。何しろ、ここは東京・銀座コリドー街。一流企業の若手エリートとの出会いを目当てに、知性と美貌を磨いた若い女性が集まる人気スポットだ。通称「新・ナンパの聖地」。取材班のミッションは「コリドー街の女性をナンパして取材せよ。身分を明かしてはならぬ」。どう考えてもインポッシブルなミッション。トム・クルーズだって逃げ出すに違いない。いやいや、トムならナンパし放題か。だけどこちらは冴えない50代。しかも低身長、低収入。何より最大の弱点は低毛量。つまりハゲ。高め狙いの女子がなびくとは思えない。
一人では心細いので、同僚の菊地武顕記者に同行を願った。勇気100倍、いや2倍くらいだけど、とにかく出陣。ハゲ隠しのハットに、普段締めないネクタイも着用して、最も女子が集まるとされる泰明小学校近くのダイニングバー「リブハウスオーシャンハウス」へ。時刻は21時15分。食事を終えた女子たちがやってくる時間帯だ。
店の入り口にはすでに順番待ちの行列が。20代後半と思しき2人組女子も2組並んでいる。「これは仕事だ」と言い聞かせ、最後尾の2人組に声を掛けた。
「あの……、僕らと一緒に飲みませんか?」
「え?」と、振り向いた彼女たちの目が一瞬で曇る。
「このまま一緒に入って合流しません?」
「ごめんなさい。ククク~」
何だその笑いは! オジサンにだってナンパする権利はあるのだぞ。
こうなったら勢いだ。もう一組も誘ってみた。
「すいません──」
「あ、聞こえてました。私たち、待ち合わせなんで」
「待ち合わせの人が来るまででもいいんです」
「ごめんなさい!」のユニゾンで断られてしまった。断られた彼女らと一緒に並ぶのがいたたまれない気分だったが、すぐ入店できた。