山田さんは、元気なうちに戸籍を集めておくことを勧める。

「本人でなくても推定相続人なら戸籍を取れます。あらかじめ集めておけば、いざというときには死亡時の戸籍のみ取り直すだけで済みます。わからないことは親本人にも聞けますし、収集自体は郵便のやり取りで可能です」

 相続人を確定できても、まだ大きなハードルがある。「相続財産の確定」だ。

 故人の預貯金口座は、名義人が死亡したとわかった時点で凍結される。お金を引き出すには、やはり相続人を確定する戸籍謄本などの書類を金融機関に出す必要がある。口座を持つすべての金融機関に同様な手続きをする必要があるが、どの金融機関と取引があったかをそもそも把握しきれないケースも多いという。

「勧められて断り切れず口座を開くこともあるので、取引のある金融機関は相当数になることがあります。また、合併や統廃合を繰り返して名前が変わっている金融機関もあり、死後に通帳を見つけてもどこに行けばよいかわからないことがあります」

 山田さんは、親が元気なうちに金融機関名だけでも確認しておくとよいと勧める。金額まで聞くのが理想だが、「財産をねらっているのか」と警戒されると親が口を閉ざす恐れもある。

 口座凍結に備え、あらかじめ親に暗証番号を聞いておき、凍結される前に引き出そうとする人もいる。ただ、こうした行為はリスクが伴うので要注意だ。

「相続人全員の合意なく引き出すと、それだけで親族間トラブルに発展しかねません。また、後から故人の借金が発覚して相続放棄を決めた場合でも、すでに相続財産を引き出してしまっていると、放棄できなくなる可能性があります」

 口座が凍結されると、葬儀代を払えなくなったり、生計を同じくしていた遺族が当面の生活に困ったりすることもある。こうした事態を防ぐには、死亡保険金が数日で支払われる生命保険への加入や、一定の額を生前贈与しておく、などの対策が考えられるという。

 口座の凍結対策には朗報もある。2019年7月以降、いわゆる「改正相続法」が施行される。相続人が単独で、個人の預貯金を仮払いとして引き出すことが認められるようになる。相続開始時の預貯金額の3分の1に、引き出す人の法定相続分をかけ合わせた上限額だ。金額は限られるが、知っておくといざというときに慌てずに済む。

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