現場となったスーパーは昨年オープンしたばかりで、利根川にほど近いのどかな立地だ。多くの地元住民が自動車や自転車で買い物に訪れる。

 事件後ほどなくして営業を再開したスーパーでは平穏な日常が戻りつつあったが、警備員の視線は鋭く、従業員たちの口は重かった。よく買い物に来るという60代女性は、「身近でこんな事件が起きるなんて、とにかく驚いた。しかも犯人は自分より年上の高齢者。理由がわからないのが怖い」と語った。

 店側によると、男は過去に同系列の別店舗で従業員へ暴言を吐くなどのトラブルを起こし、再三の注意にもかかわらずやめなかったために警察に通報した経緯があるという。

 男は、この一件を逆恨みして犯行に及んだとみられるが、今後こうした事件はどこで起きても不思議ではないのかもしれない。

 近年深刻とされる高齢者の万引きだが、明確な悪意を持った犯行に対しては断固対峙しなければならない一方、高齢者の抱える悩みや不安が万引きをはじめとする犯罪という最悪な形で顕在化しているならば、それをどのように行政や社会が受け止め、手を差し伸べていくかはこれからの大きな課題だ。東京都の行った電話相談のような窓口がこれからも増えることを望むばかりだ。

 相談員を務めた社会福祉士の松友了氏(早稲田すぱいく)が語る。

「高齢になると、退職や家族との別離などにともなって、社会との接し方も変わっていきます。その過程で他人との交流が減っていくと、徐々に社会と自分自身の価値観にズレが生じて、躊躇(ちゅうちょ)せず万引きができてしまう可能性があります。ですから、高齢者と社会のつながりをどのように築いていくかは、万引き防止のためにも重要でしょう」

 今年、カンヌ国際映画祭で日本映画として21年ぶりに最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」では、訳ありの人々が寄り集まって一軒家で暮らす疑似家族が描かれた。

 その中で、「万引き」は彼らの主な生活手段の一つであると共に、一家の絆を象徴する行為でもあった。しかし、皮肉なことに高齢者にとっての万引きは、社会とのつながりが途切れた証拠なのかもしれない。(稲葉秀朗)

週刊朝日  2018年8月3日号より抜粋