プロデューサーの意向でポップなシングルも発表したが、ジェフが目指したのは“最高のロック・バンド、ブルース・バンド”であり、現在は“サー”の称号を持つロッド・スチュワート、ロン・ウッドらとそれを実現。ジェフ・ベック・グループ名義で画期的なブルース・ロック・アルバム『トゥルース』『ベック・オラ』を生んだ。

 もっとも、ジェフとロッドの間には亀裂が生じ、69年のウッドストック・フェスティバルの出演前にグループは崩壊。映像では、そのあたりの事情がロッドやロンの言葉でも語られる。

 70年には第2期ジェフ・ベック・グループを始動。スティーヴィー・ワンダーとの共演から生まれた「迷信」を巡るエピソード、同曲をベック・ボガート&アピスでハード・ロック化して絶大な評価を得たものの、曲作りに煮詰まって解散に至った経緯も明かされる。

 ジェフが“新たな扉が開いた”と感じたのは、マイルス・デイヴィスのアルバム『ジャック・ジョンソン』でのジョン・マクラフリンのギター演奏だった。これに衝撃を受け、第二のロッドを探すのを諦めてギターに集中する。プロデュースをジョージ・マーティンに委ね、フュージョン的な要素やオーケストラも起用した『ブロウ・バイ・ブロウ』(75年)を発表し、新たな評価を得た。ヤン・ハマーとのコンビによる『ワイアード』(76年)も好評だった。

 ヤンのほか、デヴィッド・ギルモア、ジョー・ペリー(エアロスミス)、スラッシュ(ガンズ&ローゼズ)、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトンらが、トレモロ・アーム、ヴォリューム・コントロルを巧みに操る指弾きや、ハーモニック奏法といったジェフのギター・テクニックを分析する。その数々のコメントも本作の見どころだ。

 ヤンは“誰もが想像しえない形で楽器の可能性を広げた”。エリックは、ジェフのギター・テクニックの追究について“すべては彼の声を出すため”。ジミー・ペイジは“今も進化し続けている。人としても心から尊敬し続けている”と語っている。

 ジェフは、常に新しい視点を持ち、リスクを恐れずに挑戦し続けてきた。74歳を目前に、衰えや限界をちっとも感じさせない。

“家のあちこちにギターを置いてある。弾くのを忘れないように。ギターは絶え間ない挑戦だ。手に取るたび覚えたてのふりをする。それって効果があるよ”

 そんなジェフの言葉から、鍛錬を怠らない努力の人であることも明らかになる。ギターに賭ける情熱がうかがえ、『スティル・オン・ザ・ラン』という表題にも納得させられた。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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