「僕だって本当は、東京行ったら女性を撮りたいと思っていました。でも、周りを見渡せば、立木義浩さんに沢渡朔さん、篠山紀信さんと、女性を撮らせたらうまい人ばかり(笑)。たまたま、ロックミュージシャンに知己を得られたので、いっそロンドンかニューヨークに移住しようかとも思ったけれど、ちょうどミュージシャンがワールドツアーをするようになって、日本に立ち寄るたびに、『会いたい』と言ってくれて」

 まだ、西洋からの観光客は少なかった時代。ミュージシャンたちは、鋤田さんの写真に、東洋的な美や哲学を見いだしていたのかもしれない。

 そんな鋤田さんの写真家人生に迫るドキュメンタリー映画が完成した。「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」には、刺激的な70年代をともに過ごした糸井重里さんや坂本龍一さんら、日本を代表するクリエーターやアーティストのほか、映画監督のジム・ジャームッシュなどがコメントを寄せている。

「若い頃は、仕事という意識じゃなく、“何か面白いことを”と、みんなで毎日ワイワイやっていた。当時も今も、仕事のスタイルはそんなに変わっていないのかもしれないですね。僕も80歳になりましたが、写真は死ぬまで撮り続けると思う。ただ、活動の拠点は、生まれ故郷の直方(福岡県)に移す準備を進めています。今後は、60年間ずっと撮り続けている“街”の写真を発表するつもりです。“風景写真”とは少し違う。ピッタリくる言葉を今探しているところです(笑)」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2018年6月1日号