「雨だからな。どうしてもこんなかんじだよな」。とうとう天気のせいにします。じゃあ梅雨時はどーすんだよ? って話です。こういう人は快晴なら「暑いからなー、今日は!」になります。

「落語の客じゃないな」。ここは寄席だよ。じゃあ何の客だ?

「日本語わかんないな、ありゃ!」。どう見ても日本人だらけです。あなたの日本語に問題あるのでは?

「俺、今日、二日酔いなんだよなー」。自分のせいじゃんか!

「日が悪いな」。どーしろと!?

「帰ってもらえっ!!(怒)」。帰るのあんただよ!(怒)

 自分がウケなかったら客のせい。なんて酷く怠惰な生きものなんでしょう、噺家。ただ言い訳させてもらうと、ホントにそう思ってるわけじゃないんですけどね。ほとんど照れ隠し。

 じゃあウケた時は何て言うか? ほとんどの噺家は「今日は陽気なお客さんだねー!!」と言うのです。『陽気な客』。ここでもお客の気性のせい(おかげ)にします。「俺は名人だね!」とは決して言わない。思ってるかもしれないけど、言わない。奥ゆかしい? んー、なんでしょう。これも照れ隠しか。かなりめんどくさい。

 どっちにしても無責任でいい加減なもんです、噺家。でも、ちょっとかわいいかな。自分で言うな? ごもっとも。

週刊朝日  2018年5月18日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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