津田大介「マレーシアで世界初フェイクニュース禁止法」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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津田大介「マレーシアで世界初フェイクニュース禁止法」

連載「ウェブの見方 紙の味方」

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津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)

マレーシア政府系ファンドの不正流用疑惑への関与が疑われるナジブ首相

マレーシア政府系ファンドの不正流用疑惑への関与が疑われるナジブ首相

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。世界初のフェイクニュース禁止法について解説する。

【写真】マレーシア政府系ファンドの不正流用が疑われるナジブ首相

*  *  *
 マレーシアは4月3日、世界初となるフェイクニュース禁止法を成立させた。悪意を持ってフェイクニュースを発信または拡散した場合には、6年以下の禁錮刑、50万リンギ(約1400万円)以下の罰金が科されるという。この法律をめぐり、国内外から言論統制の強化につながるとの批判が相次いでいる。

 禁止法では、フェイクニュースを文章、ビデオ、音声などを問わず「一部または全体が虚偽のニュース、情報、データ、報告」と定義。発信者だけでなく、悪意を持って拡散した人物、さらには外国人や外国メディアも処罰の対象となる。また、プラットフォームは投稿されたコンテンツが虚偽であった場合に対応を義務づけられる。

 しかし、この法律の最大の問題は「フェイクニュース」や「悪意」の定義があいまいであるところだ。真偽の判断が政府に委ねられることになれば、恣意的あるいは作為的な運用が可能になる。サレー通信・マルチメディア大臣は「国民の自由と民主主義をフェイクニュースから守るための法律である」と強調しているが、野党議員や市民の間には表現の自由を抑圧し、政権批判を抑え込むことが目的ではないかとの懸念が広がっている。

 総選挙を間近に控える政権与党には、ナジブ首相の関与が疑われる政府系ファンド「1MDB」の不正流用疑惑を、批判材料に使われたくないという思惑があるようだ。3年前に発覚したこの問題は、現在も国際的な捜査が進行しているが、マレーシア当局は早々に捜査を打ち切り、疑惑を否定している。

 今年3月には、ジャイラニ通信・マルチメディア副大臣が、政府見解にそぐわない1MDB疑惑の追及は「フェイクニュースにあたる」と発言。表現の自由への抑圧ではないかとの批判を受けたが、サレー大臣は発言を擁護し、「マレーシアには表現の自由はあるが、間違ったニュースを広める自由はない」と強弁した。これまでの政府の態度を考えれば、禁止法は野党やメディア、市民からの疑惑追及を封じ込めるための口実として利用される可能性が高い。

 マレーシア政府は疑惑の発覚以降、追及する声を力ずくで抑え込んできた。国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、この疑惑に関連して政権を批判する政治家やジャーナリスト、風刺画家、ソーシャルメディアに意見を書き込んだ一般市民までもが扇動、名誉毀損(きそん)などの罪で刑事訴追されているという。

 さらに政権に批判的な新聞2紙が出版停止に追い込まれ、疑惑を報じた外国メディアへのインターネットアクセスも遮断された。もともと出版や放送、ネットなどに強い情報統制を敷いている国ではあるが、禁止法はそれをさらに強化するものになりそうだ。

 フェイクニュースの法規制を検討する国は増えているが、法規制には政府に批判的な言論を統制できるようになる副作用が伴う。マレーシアの言論状況が今後どうなるかは、同じような法規制を考えている国にとって注目すべきケーススタディーとなるだろう。

週刊朝日 2018年4月20日号


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