小川榮太郎氏が朝日新聞を「戦後最大級の報道犯罪」とする本を書いたのも、そうした思いからなのだろう。毎日新聞や東京新聞を外し朝日新聞だけを集中攻撃したのは、朝日新聞が戦後長い間、特別の権威を持った新聞のように扱われてきて、現在でも年長者にはそんな認識が残っているので、あえて標的にしたのだろう。すると、編集部の予想をも大きく超えて売れた。だから、ほぼ毎月続けることになったのではないか。

 それにしても、朝日新聞攻撃がなぜ売れ続けるのか。私は戦争を知っている最後の世代で、昭和の戦争は、やってはいけない戦争だったととらえている。そして、敗者としての責任を自覚している。私だけでなく、池田勇人以後、自民党の歴代首相はそう自覚していて、だから誰一人、憲法改正を唱えなかった。朝日新聞も、敗者としての責任を強く自覚しているはずだ。だが、敗者としての責任を自覚し続けるのに我慢できなくなった者が予想外に増え、朝日新聞攻撃に快感を覚えるようになった、ということなのだろうか。

 一つ気になることがある。朝日新聞はなぜ、自分たちを攻撃し続ける小川榮太郎氏や櫻井よしこ氏と論争しないのか。論争に自信がないはずはないだろうに。

週刊朝日  2018年3月16日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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