作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、民進党代表選から政治家の在り方を問いかける。

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 この原稿が掲載される頃には、民進党の代表が確定しているだろう。安倍さんにはうんざりだ。民のための政治に向け、民進党には本気で頑張ってほしい。

 とはいえ、いまいち盛り上がりに欠けている。メディアは保守(前原)vs.リベラル(枝野)と煽るが、中身は見えない。正直私には二人の違いがよくわからない。前原さんの「オール・フォー・オール」と枝野さんの「お互い様に支え合う社会」、同じだし。明確な違いは、鉄道オタク(前原さん)かアイドルオタク(枝野さん)かくらい?というわけで、二人の闘いを追いかけてみた。

 印象に残ったのは枝野さんの演説のうまさだった。立候補の動機を問われた記者会見では「(安倍政権への)危機感と怒りです」。ずばっと言い切った。一本!と手を叩きたくなる。一方の前原さんは「年金生活をしていらっしゃるご高齢者」への思いをまず語りはじめるが、着地まで長い。前原さん、鉄オタ、地味で真面目。

 8月28日に東京プリンスホテル鳳凰の間で行われた東京・南北関東ブロック討論会は、貴重な体験だった。民進党の「み」を言うだけで有権者が心閉ざす現状を訴える党員や、地位協定についての考え、政権交代に必要なことなど、会場からの様々な問いに二人が答えた。鳳凰の間は東プリの主宴会場だ。巨大シャンデリアにふかふかの絨毯がしきつめられた500坪のパーティー感溢れる場。そんな場で、一人一人の言葉が密度をもってしっかりと響くことに私は驚いた。

 
 社会の理想を真摯に語り、政策の理論を述べ、何が求められているのかに知恵を巡らす時間。その場に参加している(←座っているだけ)と、これが民主主義だっ! 私はギリシャのポリスを見たっ!みたいな気持ちになるほど、「政治」が目の前にあったのだ。政治とは言葉だ。希望も理念も理想も、人の言葉から始まるのだ。

 印象に残ったのは「経済政策はあるのか?」という質問への前原さんの答えだった。

「オール・フォー・オールは経済政策ではない、命や尊厳をどう保障するかという社会政策なんです」

 ほろりときた。経済成長だけ重視すれば安倍さんと同じ。そうではなく、誰もが安心して、尊厳を損なわず、社会に信頼を持つことで、経済的にも好循環が生まれる。そんなふうに社会や政治を信じられたら。それこそ私たちがずっと、政治に奪われ続けている人間としての尊厳なのかもしれない。

 支持率6%の政党がどのように回復するか。勢いのある風に軽々しく乗り、意味のない言葉や嘘を平気で吐く政治家ではなく、痛みのわかる政治家を育てるしかない。野党共闘とか、そういう「作戦」だけじゃ勝てないことも、私たちは十分に知っている。政治家を育てよう。時間はかかるし、面倒なことだが、安倍さんに奪われたものはそれだけデカい。取り戻すには時間はかかるが、やるしかないのだ。

週刊朝日 2017年9月15日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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