「長谷山候補がいい」と口火を切ったのは、菊池廣之委員(極東証券会長)。茂木友三郎委員(キッコーマン名誉会長)も「セカンド(2位)がいい。現執行部の継続が望ましい」。

 佐治信忠委員(サントリーホールディングス会長)は「改革が必要。現執行部ではなく1位を選ぶべきだ」。上原明委員(大正製薬会長)も「国際化を考えると細田氏がいい」と発言。すると、ほかの財界人からすかさず、長谷山氏を推す声が上がった。

 委員長の岩沙氏が「時間が来ましたのでこれで最後」と元塾長の安西祐一郎委員に発言を促し、「委員会としては長谷山候補を全会一致で評議員会に推薦します」と宣告。賛同する委員の拍手で終わった。発言のほとんどは外部委員。学内からは、河添健委員(総合政策学部長)が「国際性、改革性で細田氏が優れている」と主張したくらいで、ほとんどの委員が沈黙した。

 こうした様子を記したメモは誰が作ったのか、どの程度正確かわからない。

 慶應の広報に選考過程を照会すると、「銓衡委は非公開、何がどう話し合われたかはわかりません。議事録はありません」という。

 塾長は4段階で決まる。まず学部・職域で候補者を2人ずつ選ぶ。選挙人450人が一堂に会し、1回目の投票で5人に絞り、2回目で3人を選ぶ(投票者1人につき3人まで投票できる)。得票数は、細田衛士候補(経済学部教授)が、選挙人の過半数の支持を得た。

 票数は選考材料の一つという。ただ、戦後始まった投票制度では、「得票トップの候補を選ぶことが慣行」と関係者は口をそろえる。票数は学内の民意を示すとされた。

「滅茶苦茶です。日曜を返上して選挙人が厳粛な投票をしたのに、銓衡委員会がひっくり返した。挙手も投票もない。議事録も説明もない。こんなやり方で塾長を選んでいいのか」

 企業ガバナンスを研究する関係者は呆れかえる。

「よほど細田さんになってほしくない事情があったのでは」という観測がしきりだ。清家塾長の任期終盤には、日吉記念館の建て替えや新たな学生寮建設などの計画が相次いだ。利権やカネが絡む話があるのでは、との臆測が広がっている。

次のページ