綱川社長が記者会見で配った資料には、今後軸とする事業が記されている。鉄道、車載機器、電池、ビル空調……。どれも小粒だ。「これぞ東芝」と納得いく分野は、見当たらない。

 2006年、当時の西田厚聡社長は「選択と集中」を唱え「柱は半導体と原子力」と打ち出した。半導体は大儲けもするが、浮き沈みが激しい。原子力は投資がかさむが、安定した利益を見込める。この二つで盤石の経営基盤を築く、との戦略だ。そこで、米国のウェスチングハウス(WH)を破格の値で買った。

 なぜ西田氏は「原発は安定事業」と思い込んだのか。2月の会見で示された「原子力事業の連結業績推移」という資料から、謎を読み取れる。

 原発の稼ぎは、ほぼ「燃料・サービス」に頼っている。ウラン燃料の供給や、機器の修理など「原発のお守り」ともいえる事業だ。15年度の原子力事業の売上高7275億円の8割を稼いだ。営業利益はプラントの新設事業が66億円の赤字に対し、燃料・サービスは442億円の黒字だ。

「3.11以後、原発の新設は世界でぱったりと止まった。わずかにある仕事も安全基準の強化などで採算が合わない。やればやるだけ赤字。それが現実です」

 東芝で格納容器の設計に携わった後藤政志さんはいう。WHは米国で建設中の原発4基の工事費が膨らんで費用負担を巡り裁判ざたとなった。窮余の一策で相手会社を買収し、訴訟は収まった。しかし、トラブルのタネをのみ込み、7千億円もの損失を生んでいる。

「建設工事はリスクが高いので撤退の方向で見直す。燃料・サービスは安定収益が期待できるので、続けたい」(綱川社長)

 燃料・サービスは安定的に儲かっている。儲けすぎではないかと思うほどだ。

 16年度の業績見通しを見よう。燃料・サービスの売上高は、東芝が1903億円。東芝の原発は休止中のため、「燃料の売上高は立っていない」(東芝広報)という。実質的には、保守・点検・修理などメンテナンスの売上高になる。

 原発が動いているWHの3214億円の内訳は、燃料1414億円、サービス1853億円。両社のサービス事業は同規模といえる。

 かかわる原発の数は大きく違う。WHは世界に92基あり、東芝は日本に21基。単純計算すると、WHは1基20億円、東芝は90億円。東芝は、メンテナンスでWHの4倍以上稼ぐ“効率経営”にみえる。

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