西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、先日行われた侍ジャパンの強化試合を評価する。

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 侍ジャパンがメキシコ、オランダと強化試合を行った。11月の戦いというものは本当に難しい。3月のWBC本番を見据えれば、極力休みを取りたい時期ではある。それでも野手は、ほぼフルメンバーがそろった。選手の代表に対する意識が高いといえるし、2013年に侍ジャパンを常設化して準備してきた成果は確実に表れている。

 結果は別として、この4試合の強化試合の前に、4日間、練習を行った意味も大きいよ。選手間でオフの調整におけるモチベーションにもつながる。何より、投手にとっては、日本の統一球より滑るとされるWBC球の対処法について、これまでの国際大会で蓄積したノウハウを共有できる。特に若い投手にとっては、こういった期間がなくオフに突入した場合、どう対処していいかわからなかっただろう。意味のある合宿だったと思う。

 私は13年の第3回WBCで投手総合コーチを務めたが、山本浩二監督が正式発表されたのが12年の10月10日だった。11月の強化試合の人選も早急に進める必要があったし、何より、メジャーリーガーの招集方針についても後手に回ったという印象はぬぐえなかった。今回は小久保監督が8月に渡米し、本人とも面談して、個々の契約状況や、大会に関する考え方なども聞けたと思う。十分にコンセンサスを得た上で招集することもできるし、準備は着々と進んでいるよね。

 
 ただ、いくら準備しても、本番では想定外のことが起きるということを、首脳陣は常に頭に入れておく必要がある。WBC球への対応は、11月や自主トレ期間中は対処できていたとしても、春先の乾燥具合によって、突如として対応できなくなることもある。しかも、本当に腕を振った時にどうなるかは、大会直前の強化試合で実際に投げてみないとわからない。日本と米国では当然、気候も乾燥具合も異なる。その意味で、選手の対応能力を大会に入ってからも注視していく必要がある。

 前回大会では田中(現ヤンキース)がWBC球でスライダーが曲がらなかった。1次ラウンド初戦のブラジル戦は2回、23球で交代した。エースとして期待した選手だが、本来の能力とはほど遠い状態だった。もし、私が選手のプライドを優先させていたなら、こんな継投はできない。私は常に「代表は勝つために投手起用すべきだ」と考えていた。だから、その時点では別の投手のほうが抑える確率が高いと考え、山本監督と相談して交代した。中継ぎ登板をさせながら、状態が上がってきたら、決勝の先発をと考えていた。

 能力と実際の状態がかけ離れていた時に、どこまで信じて使うかの決断は首脳陣に問われる。そして、選手にその意識を持たせることも重要だ。直前に登板が変更になることもあるし、先発タイプの投手も救援に回ることがある。「なんで俺がこんな扱いになるのか」とか「もっと早く(登板日を)言ってくれれば」と感じる選手がいるなら、その時点で代表選手としては減点である。

 あらかじめ決めた順番どおりにはいかないことは首脳陣も頭に入っていると思う。権藤投手コーチは経験が豊富だし、野手出身である小久保監督の背中も押してくれるはずだ。起用の弾力性を生むことができるかで、結果も変わる。

週刊朝日 2016年11月25日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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