対局に臨む井山裕太 (c)朝日新聞社
対局に臨む井山裕太 (c)朝日新聞社

 前人未到の七大タイトル独占を4月に成し遂げ、囲碁界の絶対王者として君臨する井山裕太七冠(27)が11月3日、名人のタイトルを高尾紳路九段(40)に奪われ、六冠に後退した。七冠達成から197日で独占状態が崩壊。無敵を誇った井山はなぜ敗れたのか。本人は「これが実力」と言うが……。

 誰もが「信じられない」と思ったシリーズだった。井山は8月下旬に始まった名人戦七番勝負で挑戦者の高尾に開幕3連敗を喫し、いきなりカド番に立たされた。タイトル戦の開幕3連敗は初の経験。しかも高尾は、昨年以降11勝1敗と圧倒していた相手だ。第4局から3連勝して追いついたものの、最終局で力尽きた。

「ストレスや疲労の蓄積が相当なものなのだろう。初戦に敗れ、流れをつかめなかったように見えました」

 師匠の石井邦生九段(75)は、弟子の不振についてこのように話す。井山は3年前に七冠独占を「究極の目標」に掲げ、大舞台で戦い続けた。その疲れがどっと出たとしても不思議はない。秒読みに追われながら致命的なミスを繰り返すなど、明らかに精度が落ちていた。

 井山は主要タイトルを独占しているため、挑戦者が決まるまでは対局がない。この「実戦不足」を危惧する声も少なくなかった。

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