展示品の学徒勤労動員で使われた旋盤を案内する羽毛田氏(撮影/写真部・岡田晃奈)
展示品の学徒勤労動員で使われた旋盤を案内する羽毛田氏(撮影/写真部・岡田晃奈)

 戦後71年を迎えた日本は、風化する戦争の記憶とどう向き合い、歩めばよいのか。戦争体験の連載記事をまとめた『70年目の証言』を刊行するなど、その声を後世へと届けてきた、昭和館(東京・九段南)の館長を務める前宮内庁長官の羽毛田信吾氏(74)は、この問題をどう考えるのか。戦争犠牲者の慰霊を続ける両陛下の思いに触れつつ、昭和館での取り組みを語った。

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戦後71年を迎えた8月15日、日本武道館で戦没者追悼式が執り行われました。天皇陛下は、おことばのなかで戦後71年を迎えた日本の平和に触れたうえで、昨年と同様に「深い反省」という表現を選び、「戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い」と訴えられました。

 私は宮内庁次長となった2001年から、長官で退官する12年まで、11年間、両陛下にお仕えしました。その間、陛下が何度もおっしゃっていたのは、「戦争の記憶を風化させない」という言葉です。戦争のむごたらしさを体験した世代が減り、記憶が風化する。両陛下はそこに強い懸念を抱いておられます。

 天皇陛下は昭和8(1933)年生まれの82歳。皇后陛下は9(34)年生まれの81歳。疎開体験をお持ちだから、より思いが強いのでしょうか。

 一方で、私は昭和17(42)年生まれの74歳です。郷土の山口県萩市は空襲の被害はなく、終戦時3歳だった私に戦時中の記憶はほとんどありません。2013年から昭和館の館長を務める私自身も、戦争を知らない世代です。1956年、日本は国連に加盟し、国際社会への復帰を果たし、政府の経済白書は、「もはや戦後ではない」と記した。しかし、来館者の大半はその「戦後」すら知らない世代です。

 戦後70年の節目が過ぎ、記憶の忘却は加速度的に進みます。

 昨年は安保法が成立するなど大きな転換期でした。法案への賛否は別にしてこれにかかわった政治家や官僚の多くもまた、戦後を知らない世代です。館で作成する「昭和のくらし研究」というシリーズ本に、東京大学文学部の鈴木淳教授が印象的な言葉を記しています。

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