古代オリンピックは、現在と同じく4年に1度、7~8月に開催されていた。開催に先立ち、使者が諸国をまわって休戦を告げる。現実問題として、オリンピックを行うには平和が不可欠だったからだ。「古代における旅は、いま考えるよりもはるかに危険なものでした。競技者や観戦者がオリンピアまで安全に旅ができるように、休戦協定を結んだのです」

【トリビア8】汗掻きヘラと香油壷はできる競技者の証?

 競技者の“2種の神器”と言えるのが、アリュバロスと呼ばれる香油を入れるための小型の壺と、ストレンギスと呼ばれる垢掻きのヘラ。競技者が日々身体を清潔に保つために必要な道具だった。競技者たちは、運動前に香油を身体にすり込んだ。香りに身体治癒力を認めていたとも、ギリシャの強い日差しから肌を守るためとも、あるいは肉体をより美しく見せるためとも言われている。運動後は、ストレンギスを使って、身体に塗った油と、砂や埃などの汚れを削ぎ落とした。

【トリビア9】当時もやっぱり不正は行われていた

 名誉を重んじるはずのオリンピック競技だが、不正が横行していたのも現代と同じ。「審判員を買収するといった不正が発覚すると罰金刑が課され、その罰金でゼウス像を作って奉納していました。オリンピアの神域には、ザネスと呼ばれるその像が優勝者の銅像とともにずらっと並んでいたそうですから、いかに不正が多かったかわかりますね(笑)」

【トリビア10】名誉と美が最も重んじられた

「古代ギリシャ人にとって最も大切なのは、名誉。後世の人々に記憶されることが、我々が考える以上に大切だったのです」。1908年のロンドン大会で語られた「参加することに意義がある」というオリンピック精神は広く知られているが、古代ギリシャにおいては、やはり勝つことにこそ意義があった!?

■特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」
東京国立博物館 平成館(上野公園):9月19日(月)まで
長崎県美術館(長崎市出島町2-1):10月14日(金)~12月11日(日)
神戸市立博物館(神戸市中央区京町24):12月23日(金)~2017年4月2日(日)

芳賀京子(Kyoko・Haga)
東北大学大学院准教授。アテネのイタリア国立考古学研究所大学院専門課程および東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。専門はギリシャ・ローマ美術史。著書に『ロドス島の古代彫刻』など。

週刊朝日  2016年7月22日号