青山:それもコピーライターで学んだんだと思うんです。企業のPR記事では褒めなくちゃいけないんですがそれが難しい場合、細部に注目するんです。シカゴの摩天楼をつくった建築家のミース・ファン・デル・ローエが「神は細部に宿る」と言いましたが、あらゆる本質が凝縮してるような素材があるわけです。僕は誰も書いたことがない世界を書こうと思ってるものですから、時代が凝縮されている、誰も使っていない素材を、常に探しているんです。

林:なるほど。山本一力さんも最初はお金のためと割り切って、中年になってから時代小説でデビューされましたけど、そういう苦労人の方の小説には、人の心を打つエッセンスが入ってるのかもしれない。

青山:最初はお金のためでしたが、やっぱりお金のためには書けないですよね。自分の書きたい世界を形にしたくて書くんだと思うんです。僕は50歳で一度小説をやめて、フリーで定職もなく、ただのおじさんになったわけです。小説を書いてるときは、「俺は小説を書いてるんだ」というつっかえ棒みたいなものがあったんですが、それもなくなっちゃった。そのときはつくづく、「ああ、食っていけりゃいいんだ」と思いました。サラリーマンがうらやましかったですね。毎月確実に給料が入ってくるわけですから。

林:出版社の人にボーナスの額を聞くとムカムカしちゃいますよ(笑)。

青山:それでああだこうだ言われると、腹が立ちますよね(笑)。

林:そうは言ってもお世話になってるし、なんて急にフォローしますけど(笑)。たしかそのころ、広告業界も大不況に入っていきましたよね。

青山:そうですね。ただ、僕はおかげさまで古巣からコンスタントに仕事が入ったので、その部分での苦労はなかったんです。とはいえこの先も同じように仕事があるとは思えなかったし、貯金なんかしてませんからね。貯金をする純文学作家なんて考えられませんから。だから仕事をやめたらあっという間に生活できなくなるわけです。

林:私もほんとに貯金ないんです。無頼を気取るわけじゃないですけど、作家って生きてるだけですごくお金かかるんですよね。いろんなことを知らなきゃいけないし。

青山:体験しないで資料だけで書くわけにはいかないですからね。

週刊朝日 2016年5月6-13日号より抜粋