作家 青山文平(あおやま・ぶんぺい)1948年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。出版社に18年勤務した後、フリーに。2011年、『樫の樹の下で』(文藝春秋)で松本清張賞受賞。15年、『鬼はもとより』(徳間書店)で大藪春彦賞受賞。16年、『つまをめとらば』(文藝春秋)で直木賞受賞。著書に『かけおちる』(文藝春秋)、『約定』『伊賀の残光』(新潮社)がある。『半席』(新潮社)が5月20日に発売予定(撮影/写真部・堀内慶太郎)
作家 青山文平(あおやま・ぶんぺい)
1948年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。出版社に18年勤務した後、フリーに。2011年、『樫の樹の下で』(文藝春秋)で松本清張賞受賞。15年、『鬼はもとより』(徳間書店)で大藪春彦賞受賞。16年、『つまをめとらば』(文藝春秋)で直木賞受賞。著書に『かけおちる』(文藝春秋)、『約定』『伊賀の残光』(新潮社)がある。『半席』(新潮社)が5月20日に発売予定(撮影/写真部・堀内慶太郎)
林真理子さん(撮影/写真部・堀内慶太郎)
林真理子さん(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 今年1月、『つまをめとらば』で直木賞を受賞した青山文平さん。選考委員の林真理子さんも「女たちの魅力的なことといったらどうだろう」と絶賛した、江戸を舞台にした時代小説です。もともと出版社でコピーライターをしていた青山さん。一度は純文学を書いていたものの、10年間、執筆をしていなかったそう。時代小説で執筆を再開した理由を林さんとの対談で明かした。

*  *  *

林:何かきっかけがあってまた書き始めるわけですね。

青山:妻が60歳のときに、社会保険事務所に国民年金の手続きをしに行ったんです。女房は専業主婦だったものですから、国民年金が月6万いくらしかない。僕も18年しか会社勤めをしてないので、厚生年金はあてにならない。貯金もないし、これじゃあ絶対に食っていけない。どうするかとなったとき、自分にできることといったら書くことぐらいですから、書いて「文學界」の元編集長の庄野(音比古)さんに連絡をとったんです。ならば、松本清張賞に出してみろ、ということになって。それが『白樫の樹の下で』です。

林:どうして時代小説に?

青山:食うために書くわけですから、手堅く時代ものがいいと思ったんです。純文学のときは自分の書きたいことを書くだけで、読み手のことなんて考えてない。でも、今度はちゃんとお金にしよう、表現行為じゃなくて経済行為だと。だけど実際には、そうもいかないですね。

林:というと?

青山:やっぱり表現行為になってしまうんです。戦国や幕末を書いたほうがお金になるとわかっているんですが、僕はあの時代にはぜんぜん興味を持てない。人間を書きたくなるんです。人間ってちゃんと食えるようになって初めて、人間を人間たらしめているいろんな成分が出てくると思うんです。それで江戸時代の中でいちばん成熟した時代である18世紀後半から19世紀前半、宝暦から文政までを舞台にしました。

林:文化・文政ですね。青山さんの小説はサラッと人情話を書いてるようでいて、当時の生活のあり方とか、すごく勉強しなきゃ書けないと思うんです。その努力を見せないテクニックがすごいですよね。

次のページ