「移転時期は業界の方とも議論を重ねて決めたものです。環状2号線の整備も勘案の中に入っていますが、それだけでなく『年末商戦に向けて上がり調子のときに開場したい』『2月は大雪と重なる恐れがある』など様々な意見があり、それらを集約した結果です」

[2]新店舗が「狭い」!?

 築地市場の広さは、東京ドームが五つ入るという23ヘクタール。これに対し豊洲新市場は40ヘクタールと、広さは約2倍になる。駐車場や通路などの物流スペースを広げて、大型トラック輸送が中心の物流に対応するのが目的だ。ところが、仲卸業者たちからは「店舗が狭い」と悲鳴が上がっている。マグロなどの「大物」を扱う仲卸業者「洸峰(こうほう)」の渡部峰夫社長がこう語る。

「豊洲の店舗では、狭くて包丁が引けないんですよ。マグロの包丁は刃渡り70~80センチ、長さ1メートルほどもあるが、店の横幅は1.5メートルで、壁もあるから実際はもっと狭い。包丁を引くと、背後の壁に肘が当たる。これではケガ人が出ます。別の場所に作業場を設けるという話もあったが、お客さんの前でマグロを切らなければ商売にならない。築地が狭いから広いところに移転するという話だったのに、こんなバカな話がありますか」

 現在の築地の店舗は手狭な中でも何とか備品を配置しているが、新しい店には入りきらないという。

「マグロ等を入れるダンベ(冷蔵庫)が長さ3メートル以上あり、魚を切る台やストッカー(冷凍庫)、マグロ解体機もある。新店舗が狭いので、小さいものに買い替える必要が出てくる。冷蔵庫が小さくなれば、それだけ扱える商品の量も減ってしまいます」(渡部氏)

 大型備品は一つ50万円から150万円ほどもする。備品の買い替えを余儀なくされる業者は、他にも多数存在するという。何のための広大な敷地なのか。新市場整備部に聞くと、

「現在の市場の店舗1コマあたりの面積は平均7.2平方メートルですが、新市場では8.25平方メートルになる。狭くなることはないはずですが……」

 との答え。どういうことなのか。記者は築地市場内の「水産仲卸モデル店舗」を訪れた。豊洲市場にできる新店舗の“モデルルーム”だ。

 実際に目にした店舗はモデルとはいえ、どこかよそよそしい事務的なたたずまい。築地との最大の違いは「壁」の存在だ。築地では各店舗間や通路との間に壁がない店舗が多く、開放的な空間が広がっている。一方、豊洲のモデルでは2店舗ずつのユニットが、一部に透明な窓がついた壁に覆われ、「部屋」のようになっている。さらに、室内の2店舗間にも間仕切り壁の設置が義務づけられるという。前出の仲卸役員がこう話す。

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