北朝鮮制裁の一部解除を表明した安倍晋三首相(2014年7月3日) (c)朝日新聞社
北朝鮮制裁の一部解除を表明した安倍晋三首相(2014年7月3日) (c)朝日新聞社

 北朝鮮の若き最高権力者、金正恩の暴走が止まらない。一部制裁解除と引き換えに約束した拉致問題の再調査も反故。安倍政権は一杯食わされた格好だ。解決のウルトラCは? クライシスが迫る北朝鮮の現状をジャーナリスト・石高健次が取材した。

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 安倍晋三首相自らが、ぶら下がり会見でストックホルムでの日朝政府間協議で合意がなり、北朝鮮が拉致被害者ら行方不明日本人の再調査を約束したと発表したのは、昨年5月29日。

「拉致問題全面解決への第一歩と期待したい」の言葉から始まった協議は、北朝鮮の報告書提出期限が過ぎた今も何ら進展を見せていない。

 膠着の原因は何なのか。私は、外務省による交渉とは別ルートで官邸に入った情報に乗ってしまったことではないかと考えている。

 外務省の対北交渉の基本的な考えは、「北朝鮮が拉致被害者など再調査を約束した時点では制裁を緩めない。受け取った報告を吟味し中身があるとなって初めて一部解除する」(政府関係者)というものだった。それが一転、再調査開始と同時に制裁一部解除となった。ところが協議を進めると何も出てこなかった――。

 実は過去に、日朝交渉の重大局面で日本政府が前のめりになるような情報が北朝鮮から投げられていた。

 あの金丸訪朝の直前、1988年、石岡亨さん(政府認定拉致被害者)から、有本恵子さん(同)の写真同封で「事情があって平壌にいる」との手紙が実家に来ている。また、87年には能登沖で漁に出て行方不明になっていた3名のうち寺越外雄さんから24年ぶりに手紙が北朝鮮から身内に送られている。

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