フード&ワインジャーナリストの鹿取(かとり)みゆきさんが、日本ワインを紹介する。今回は、山形県上山市四ツ谷の「ドメイヌ・タケダ ベリーA古木 2013(赤)」。
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山形県上山市。温泉街の外れにある南向きの急斜面には、60本のマスカット・ベーリーAのタケダワイナリーのブドウ園が広がっている。平均樹齢は70年だ。大地にしっかりと根を下ろし、太く、節くれだった枝を広げる姿からは、東北の風雪を生き抜いた古木の迫力が伝わってくる。
古木は、若い木に比べるとブドウの収穫量が少なく、効率がはるかに悪い。このワイナリーでも、かつて植え替えが検討されたことがあった。けれど、この時の栽培醸造責任者だった岸平典子さんは、社長だった父に「古木は代々受け継いできた代え難い財産」と、伐採に猛然と反対した。
「実りが減る分、濃く凝縮された果実の味わいを出せるのも、古木の魅力です」
「ベリーA古木」は、岸平さんが丹精込めたブドウから生まれたワインだ。粒を選りすぐるなど、丁寧な作業で仕込まれた。古木ならではの、ぎゅっと詰まった果実味が、山形の冷涼な気候がつくる伸びやかな酸と調和する。余韻の長さも忘れがたい。
(監修・文/鹿取みゆき)
※週刊朝日 2015年11月27日号