「パリにはイスラム移民のコミュニティーが各地に存在し、集会場所もある。そこにアジテーター(扇動者)がいて、横のつながりもISとの接点もある。各コミュニティーにはジハード(聖戦)をやりたいという競争意識もある」

 今回の同時多発テロは、どの現場も土地勘のある者の犯行とみられる。内藤正典・同志社大学教授はこう指摘する。

「人が集まる場所と時間をよく知る人物を利用したのではないか。(15日からトルコで開かれる)主要20カ国・地域(G20)首脳会議でシリア内戦・難民問題が議論される。そのタイミングを見計らってテロに及んだ可能性もある」

 無論、ISが深く関わっていた可能性もある。志方俊之・帝京大学名誉教授は言う。

「米国やロシアなどの空爆で追い詰められたISの犯行ではないか。徐々に圧迫されてきたため、外部に攻勢に出たとみるべきだ」

 東京大学東洋文化研究所の長沢栄治教授も同じ見方だ。

「フランスがIS攻撃に参加した報復ではないか。これだけ大規模なテロには準備期間が必要で、計画的でもある。ベイルートのテロと連続した攻撃の可能性がある」

 フランスは、米ロに並ぶ情報収集能力を持つとされる。1980年代のアルジェリアの過激派によるテロ以降、テロ対策も強化されてきた。防衛大学校の西原正名誉教授はこう話す。

「いま欧州の大きな関心は難民で、そちらに気を取られてテロ警戒に緩みがあったのではないか。犯行はISが有力。あれだけの規模の同時テロであれば、大きな組織でなければ難しい」

 それにしても、なぜパリが何度も狙われるのか。外務省関係者は言う。

「ISの欧州での勢いはまだまだ衰えていない。パリが標的になるのは、ISからの移民者が圧倒的に多いからだ」

 欧州の政治経済に詳しい第一生命経済研究所の田中理・主席エコノミストによると、フランスでは近年、急増する移民や難民に対する警戒感から、反移民を掲げる極右政党である国民戦線の支持が拡大している。

「今回のテロ発生により、イスラム系難民に対する排他的な感情が高まり、極右政党のさらなる支持拡大につながる可能性がある。フランスで反EU色の強い極右政権が誕生する事態となれば、EUの屋台骨を揺るがしかねません」

 と懸念している。

「フランスには、公共生活から宗教を排除する『世俗主義』がある。イスラム式のベールを規制するなど排他的なもので、以前からイスラム厳格派の反発を買っている」(川上さん)

 という事情もある。

週刊朝日 2015年11月27日号より抜粋