演目自体は江戸時代からケレン味溢れる芝居として有名でした。「ケレン」とは、業界用語で大道具や小道具を使ってお客様を驚かせる仕掛けのこと。七化けと呼ばれる人形の早変わりなどがあり、江戸時代から近代にかけて上演するたびに仕掛けは進化してきました。壮大なスケールの物語とともに、そういったスペクタクル性に富んだ演出も楽しめます。

 ちなみに前回、同じ構成で上演したのは昭和四十九(一九七四)年と古く、私はまだ生まれていませんでした。その前となると昭和九年にまで遡ります。つまり、約四十年に一度しか上演されない演目? 五輪よりハレー彗星に近いレア度ですから、貴重な機会になるやもしれません。

 私が務めるのは、神泉苑の段の奥とラストの化粧殺生石(けわいせっしょうせき)。薄雲皇子と妖狐が悪の同盟を結ぶ神泉苑の段の奥は、前回の昭和四十九年の公演で私の祖父、鶴澤道八が三味線を務めた場面でもあり、感慨深いものがあります。景事である化粧殺生石は前段までのドロドロした展開とは打って変わり、華やかなフィナーレを堪能できます。ぜひご家族でご覧になってください。

豊竹咲甫大夫(とよたけ・さきほだゆう) 
1975年、大阪市生まれ。83年、豊竹咲大夫に入門。86年、「傾城阿波の鳴門」おつるで初舞台。「玉藻前曦袂」では神泉苑の段の奥と化粧殺生石を務める。

※「玉藻前曦袂」は10月31日~11月23日、大阪・国立文楽劇場(12日休演)。午後4時開演。料金や空席状況の詳細は国立劇場チケットセンター(ticket.ntj.jac.go.jp)。

(構成・嶋 浩一郎、福山嵩朗)

週刊朝日  2015年11月6日号