小説家の藤田宜永さん(左)と小池真理子さん夫妻(撮影/写真部・堀内慶太郎)
小説家の藤田宜永さん(左)と小池真理子さん夫妻(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 軽井沢の閑静な別荘地に、シンプルな四角い家が大小2棟、並んでいる。大きいほうが母屋兼妻・小池真理子さんの仕事場。小さいほうが夫・藤田宜永さんの仕事場だ。直木賞受賞経験もある小説家の2人は、時に同業者の同志として、そして常に互いを思いやる夫婦として。共に歩んできた道のりは、決して平坦ではなかったという。

*  *  *

妻:一緒に暮らし始めたのは、1984年。初めて会ったのはもっと前だったけどね。

夫:僕はしばらくパリに住んでたんですよ。フランス人と結婚して、航空会社に勤めてました。で、妻と別れて、会社も辞めて、日本へ戻ろうかな、っていうときに紹介されて。もちろん、小説家になる前でした。

妻:作家の笠井潔さんが「親友がパリから帰ってくるんだけど、面白い男だから、一緒に食事でもどう?」って。それで、私の大学時代の親友も誘って、4人で会ったのが最初。

夫:第一印象は決して良くなかったんでしょ。

妻:キザな男!って。

夫:こっちも気取ったお嬢さんだな、と。そんなに気の合うタイプだとは思えなかった。だいたい僕は先のことが何も決まってなくて、それどころじゃなかったんですよ。離婚も成立してなかったし。そうこうするうちに別に女性ができて、その人と同棲を始めちゃった。

妻:私は私で、別の男性と付き合ってましたしね。でも、久しぶりに出版社のパーティーで再会したときに、チークダンスを踊って……。

夫:ほかにペアになる人がいなくてね。でも、僕のチークダンスは濃厚ですから(笑)。聞けば、付き合っている彼氏とは別れるところだと。じゃあ、ってことで、翌日から電話攻撃です。

妻:彼はまだフランスにも行ったりしてましたから、エアメールで手紙は届くわ、KDDの交換を通して国際電話は来るわ。そのエキゾチックさに、私も盛り上がってしまいまして(笑)。

夫:とにかくフランスでの離婚が大変だったんですよ。当人同士が納得してても、社会のシステムが許さない。弁護士を立てて、半年おきに合計3回、裁判所に出頭するんです。判事がそれぞれに「離婚の意思は変わりませんか?」「はい」。たったそれだけのために、毎回パリまで。旅費はかかるし弁護士費用は高いし。それで、先延ばしにして帰国しちゃったから、あとが大変だった(笑)。

妻:そのうち週刊誌がかぎつけて、あやうくゴシップになるところだったのよ。

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