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 3月の「日本胃癌学会総会」で「胃癌薬物療法2015Update~大きく変貌する予感~」という題目で講演し、同学会で治療ガイドライン作成委員会の委員も務める、愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長で外来化学療法センター長の室圭(むろ・けい)医師に、胃がんの薬物療法の展望を聞いた。 

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 胃がんの薬物療法は、ここ数年で進歩してきました。講演で“変貌の予感”と銘打ったのは、薬の選択肢が増えてきて、これから先もさらに増えていきそうだからです。

 一つは、2011年にHER2陽性というタイプに対する分子標的薬トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)の投与が可能になったことです。HER2陽性は胃がんの15%ぐらいですが、昨今話題になっている食道胃接合部がんという胃上部のがんでは3割ぐらいになります。

 そして進行・再発・転移胃がんに対しての標準治療にSOXやCapeOX(S‐1の代わりのカペシタビンという薬による)療法が加わったことも大きなトピックです。SOXやCapeOX療法のメリットは、外来での治療が可能なことです。患者さんは大腸がん乳がんの患者さんと同じように、仕事をしながら治療を受けることができるようになりました。

 15年中には、ラムシルマブという分子標的薬が保険で使えるようになります。この薬は、がん細胞に栄養を運ぶ血管が作られるのを抑え、がん細胞を兵糧攻めにするというメカニズムの薬です。1次治療が効かなくなったときの2次治療の切り札になるでしょう。

 そして、少し先になりそうですが、抗PD‐1抗体という免疫治療薬が、胃がんでも使えるようになるでしょう。現在、悪性黒色腫(メラノーマ)で承認されている薬です。がんは免疫細胞の活動を抑制しますが、この薬は、免疫細胞を元気にし、がん細胞を異物として攻撃する薬です。

 従来、薬物療法は、根治ではなく延命を目的におこなわれていました。また、薬への耐性ができると、短期間で症状が悪化するために長期延命が困難でした。それが、この薬によって切除不能の進行・再発・転移胃がんでも、長期延命への道が探れることになるかもしれません。まさに胃がん薬物療法の「大きな変貌の予感」と言えるでしょう。

週刊朝日  2015年3月20日号