今、観光地や温泉地で、体の不自由な観光客の受け入れ態勢がどんどん進んでいる。

 長崎街道の宿場町として栄え、美肌の湯と、名物の温泉湯豆腐で人気を得ている佐賀県嬉野市の嬉野温泉では「ひとにやさしいまちづくり」に取り組んでいる。

「“100人の障害者・高齢者がいれば100通りのバリアが存在する”という考え方の、パーソナルバリアフリー基準を設けています」

 と、佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターの吉川博光さん。

 たとえば同じ段差でも、障害の状態によってはバリアと感じる人もいれば、まったく問題ない人もいる。バリアになる可能性のあるものは、できるだけ詳しく表記をするというもの。

 実際、町の中では、各所で詳細な案内が目に入る。しかも、「車いす利用者が利用できるトイレがあります」「筆談ができます」と表記がとても具体的だ。

 公衆浴場「シーボルトの湯」の館内は段差も少なく、リフト付きで機械浴も可能なユニバーサルデザインの貸し切り風呂がある。

 加えて、利用者がバリアフリーツアーセンターに連絡をすると、職員が丁寧に聞き取りをして、症状に応じてユニバーサルデザインの客室を持つ12の宿泊施設から最適な宿を手配してくれる。入浴介助(1回5千円)を使うこともできる。このような取り組みを始めて9年目になる。

「“こんなにお風呂にゆっくりつかれるのは何十年ぶりだろう”というお客様の声を聞いて、涙が出てしまいました。心からお風呂を楽しんでいただくにはまだ改善も必要ですが、ぜひいらしていただきたいです」(旅館千湯樓女将)

 全国のバリアフリータウンのモデルケースとして最も注目されている温泉地だ。

 旅の補助として便利なのが、体が不自由な人のちょっとした外出から国内外の旅行までサポートしてくれる介助者のトラベルヘルパー(外出支援専門員)の存在だ。

 そうした外出支援専門員を束ねる、NPO法人日本トラベルヘルパー協会の理事長・篠塚恭一さんはこう語る。

「最初のご利用は『お墓参りに行きたい』というご要望が多いんです」

 きっかけは先祖の供養だったが、「自分もまだまだ旅ができる」と自信が得られ、「次回はここに行きたい」と旅への期待が高まっていくという。

 トラベルヘルパーを抱える業者のひとつ「あ・える倶楽部」(東京都)に連絡をすると、旅の専門知識を持ち介護や看護の専門知識もあるスタッフが旅のプランニングから観光ルートや宿泊先のケアまで、旅のトータルコーディネートをしてくれる。実際の旅行ではヘルパーが同行してくれるという仕組みだ。

 全国に約650人いるトラベルヘルパーの中から、利用者の自宅に最も近いヘルパーが担当する。また、旅先だけでのサポートのみを頼むことも可能だ。

 基本料金は障害が軽度の場合で半日1万4040円、1日2万1600円ほど。旅に同行してもらう場合、トラベルヘルパーの交通費・宿泊費などは利用者が負担する。

週刊朝日 2015年1月16日号