二つの乳房があったことを知らない子どものために 乳房再建を決意した女性

週刊朝日
 乳房全摘後の乳房再建と一口に言っても、手術を決断するきっかけや再建までの道のりは人によってまったく異なる。乳房を失うとわかったときの喪失感や、再建を受ける上で覚悟する体やお金の負担──。しかし、昨年と今年、インプラント(シリコーン製の人工物)が、健康保険で使えるようになり、乳房を失った女性の負担を減らしている。

 乳がんで乳房を全摘した女性のなかには、インプラントの保険適用を心待ちにしていた人も少なくない。中西きくみさん(44歳)もその一人だ。

 右乳房にがんが見つかったのは、今から10年ほど前。結婚直後で、おなかには小さな命が宿っていた。乳がん治療も、子どももあきらめたくなかったという中西さんは、信頼できる乳腺外科医と出会えたことで、妊娠を継続しながら手術や抗がん剤治療などを進め、無事に男の子を出産。その後、引き続き必要な薬物治療を受けた。

 手術後の経過は順調で、3年前には2人目の男の子を出産。2人の子どもを育てながら思うのは、再建のことだった。

「私自身は、胸を失ってからも温泉に入ったり、胸の開いた服を着たりしていた。そういうのは意外と平気なタイプなんです。でも、子どもたちは私に胸が二つあったときのことを知らない。子どものためにも再建したいと思ったんです」(中西さん)

 だが、その当時、インプラントは保険適用外。中西さんは2人の育児にかかりきりだったため、夫の収入だけで再建に高額な費用を払うことはむずかしかった。そんな折、偶然見たテレビ番組で知ったインプラント保険適用のニュース。中西さんは主治医に再建を受けたい旨を告げる。家族も大賛成だった。

 形成外科での再建前の検査などを経て、エキスパンダーを入れる手術を受けたのは、今年8月中旬。乳房のふくらみを取り戻したが、全摘から歳月が経っていて傷痕が硬くなっていたせいか、手術後は背中の周囲に痛みが出た。

「知り合いの再建を受けた女性から、痛いとは聞いていたんですが、確かに、皮膚がひっぱられる痛みがありました。3日目ぐらいから和らいできましたが、(術後1カ月経った)今も少し痛いです」(同)

 退院後、再開した仕事を痛みで休む日も。そんな中西さんの様子を心配した長男が、背中をさすったり、ポンと手を添えてくれたりしたという。

「体温が伝わってきて、すごく楽になった。本当にうれしかったですね」(同)

 肝心の乳房ができたという実感はどうなのか。

「まだ胸といってもトップ(乳輪乳頭)はないし、単に膨らんでいるっていう感じです。ただこの前、カップ付きのキャミソールを初めて着たとき、ふと視線を落としたら、カップの内側に自然な膨らみが見えたんです。『あ、胸だ!』って思ったら、なんだかジワーッてこみ上げてきて、旦那と一緒に泣いちゃいました」(同)

 子どもたちにも成長中の乳房を見せている中西さん。初めはこわごわ見ていた子どもたちも、最近は「触っていい?」と言ってくるそうだ。来年3月に、インプラントを入れる手術を受け、再建が完了する予定だ。

週刊朝日  2014年10月24日号より抜粋

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