『「超」整理法』から『人生がときめく片づけの魔法』まで、寄せては返す、かたづけブーム。だが胸の内で「わかっちゃいるけど捨てられない!」とつぶやく人も少なくないのでは。

 そもそも、なぜ私たちはこんなにも「捨てる捨てない」にとらわれるのか。思い起こせばバブル崩壊以降、さまざまなかたづけ術が唱えられてはブームを巻き起こしてきた。

 1990年代は『「超」整理法』(野口悠紀雄著)。書類を封筒に入れて最近使った順に並べるだけだが、記者は今も取材資料の整理に活用する。2000年代に入ると辰巳渚さんが『「捨てる!」技術』を出版。「見ないで捨てる」という大胆さは新鮮だった。そして「断捨離」。さらに10年出版の『人生がときめく片づけの魔法』(近藤麻理恵著)もベストセラーだ。

 こうしたかたづけブーム盛衰の背景を、人間の消費行動を心理学の面からとらえる「行動経済学」に詳しい立正大学の林康史教授(金融論)に読み解いてもらった。

「ひとつの整理法で限界になるころ、新しい方法が提唱されてブームになる。裏付けデータはないが、景気低迷でモノを買えなくなった状況を『物欲から離れた生活をしている』と自分を納得させようとする。ブームには、そうした心理が働いている可能性もある」

 一方、普段から「家をかたづけられない」と悩む人と向き合う心理カウンセラー大門昌代さん(48)は「『見捨てられ不安』かもしれない」と分析する。

 家族との関係や複雑な過去、トラウマ(心的外傷)など相談者が抱える事情は実に幅広いのに、かたづけられない理由を「もったいない」「かわいそう」「思い入れがある」と訴える人に共通するのは自分に対する自信のなさだという。

「モノに自分を投影し、捨てる対象が、まるで自分であるかのように錯覚する。無意識の不安を抱えています」(大門さん)

 混乱した内面を悟られたくなくて誰かにかたづけを頼むこともできず、部屋にはますますモノがあふれて自己嫌悪、という悪循環に陥りやすいそうだ。

「プロでも友達でも、一度、人の手を借りてかたづけ始めれば、『こんな散らかっていても嫌われなかった』という自信につながる。それを機に捨てられるようになることは多いです」

週刊朝日  2014年10月17日号より抜粋