LCC運航開始で国内線の格安チケットが出回る一方、まとまった休みを取れないと嘆く人も多い。「ならば日帰りで沖縄を楽しんでしまおう!」と、週末旅行に詳しい下川裕治さんが現地に飛んだ。“オキナワ通”の作家が伝授する、LCCの旅の楽しみ方と注意点とは。

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 当時の航空券は高かった。いくら安い航空券を探しても、片道2万円前後という時代が長かった。南国のビーチに行くなら、グアムやサイパンのほうが安いという時代だった。

 そこにLCCが参入した。2012年のことだ。運賃は急激に下がりはじめた。

 LCCの乗り入れは沖縄好きには朗報だった。小躍りするほどだった。

 しかし、世のなかはそう甘くない。LCCの安さの背後には、つらさやストレスが横たわっている。それでも沖縄に行きたいという思いが勝ってしまう。そして朝の6時10分発というLCCに予約を入れてしまうのだった。成田空港から那覇に向かうジェットスター便だった。夏のシーズンに入り、その運賃はかなり値上がりしてきている。が、僕がパソコンのモニターを眺めていた6月、この早朝便は5千円台の運賃だった。

 しかし、6時台に出発するこの便に合わせて成田空港へ行くことは大変なことだった。都内に住んでいたら、始発電車を乗り継いでいっても間に合わない。成田空港近くに前泊したら、安いLCCを使う意味がなくなってしまう。

 
 成田発那覇行きのジェットスターには、8時台に出発する便もあった。これなら始発に乗っていけばなんとか間に合うのだが、運賃が2千円ほど高く設定されていた。それがLCCというものなのだろうか。その2千円の差に悩むのだ。「LCCに乗るぞ」と決めた時点で、節約モードのスイッチが入ってしまう。この2千円が、実際の価値以上に映ってしまうのだ。

 成田空港に行くには、午前1時台に東京駅から空港に向かう格安バスしかなかった。乗ることにしたのは、午前1時30分に出発する東京シャトルというバスだった。運賃は900円。

 午前1時すぎにバス停に行くと、すでに長い列ができていた。若者が多かった。ほぼ徹夜で乗る飛行機を若さで乗り切ろうとするタイプなのだろうか。このなかには、無類の沖縄フリークもいるのかもしれない。

 満員の客を乗せたバスは定刻に出発した。すぐに高速道路に入る。そして途中の酒々井のパーキングエリアで休憩し、成田空港に着いたのは3時近かった。通常なら1時間のコースを1時間半。その意味を成田空港ターミナルの入り口の前で知らされることになる。

 ターミナルがまだ開いていないのだった。乗客たちはドアの前でぼんやりと待つしかない。3時半頃だろうか。警備員が現れ、ドアを開けてくれた。館内の照明も次々についていく。

 
 しかし眠さとの闘いはこれからだった。ジェットスターのチェックインカウンターに行ったのだが、スタッフは誰もいなかった。通路のソファに座り、うとうととするしかない。4時過ぎにスタッフが現れてチェックイン。しかしその先のセキュリティーチェックが開いていなかった。その前で再び30分待つことになる。搭乗待合室に入ったのは5時だった。そこでまた30分待ち。こうしてやっと、飛行機に乗り込むことができた。沖縄に行きたいという思いだけで乗り切る長い夜である。

 ジェットスターはLCCだから、座席の間隔が狭い。しかしそれも気にならないほど眠かった。出発したことも知らず、コトッと寝入ってしまった。

 LCC早朝便は、新しい沖縄観光のスタイルを生んでいることを沖縄で知った。日帰り沖縄組が増えているというのだ。このジェットスター便は朝の9時前に那覇に着く。成田空港に戻る最終便は19時発。沖縄の海で遊ぶには十分な時間がある。

 日帰り組に合わせたビーチもできているのだという。『美らSUNビーチ』はその典型だ。なにしろ、那覇空港から車で15分の距離なのだ。人工のビーチだが、700メートルもある白砂ビーチと太陽は、沖縄の海を実感できる。

 レンタカーを借りて、沖縄本島を走ってみる人もいる。本部半島の先にある古宇利島へは古宇利大橋が架かっている。瑠璃色の海につくられた橋は、沖縄の絶景ポイントにも数えられている。古宇利島は沖縄ウニで有名。島内にはビーチもある。那覇から車で1時間半ほどだ。本部半島には『美ら海水族館』もある。

週刊朝日  2014年8月8日号より抜粋