夕暮れ時の代々木村田マンション。屋上からは東京都庁や新宿副都心が間近に見え、眺望も抜群。古い校舎のようなこの建物は、映画やドラマの撮影に使われることも多い(撮影/写真部・東川哲也)
夕暮れ時の代々木村田マンション。屋上からは東京都庁や新宿副都心が間近に見え、眺望も抜群。古い校舎のようなこの建物は、映画やドラマの撮影に使われることも多い(撮影/写真部・東川哲也)

 東京・新宿にほど近い代々木村田マンション。建設時は超高級物件として注目を集めた。

【部屋の写真などはこちら】

「赤塚不二夫や池田満寿夫とか、有名人が大勢住んでたよ」とオーナーの村田憲彦さん(69)は振り返る。築50年だが、全85室はほぼ満室。実は知る人ぞ知る、改装自由な賃貸物件なのだ。しかも、桁外れの自由度の高さが魅力。床や天井をぶち抜いても問題ない。

 入居者の一人が村田さんに、「天井にアンカーボルトを打ち込みたいんですけど……」と恐る恐る相談したところ、「いいよいいよ! 何ならドリルも貸そうか?」と言われ、拍子抜けしたほど“改装慣れ”している。

 そんな村田さんが新たな入居者に必ず言うことがある。

「うちは“出世マンション”だから、早く出なきゃだめだよ」

「てるうちスタジオ」の照内潔さん(60)と堀弘子さん(61)も“出世組”。約30年前に入居して撮影スタジオを構え、20年の間にマンション内の広い部屋に引っ越したり、倉庫用の部屋や駐車場も借りた。その後、とうとう近くに土地を買って住居兼スタジオを建てたのだ。

「入居時は本当に楽しくて、仕事も順調でした。あのマンションは人や運を呼び込み、いいエネルギーに満ちていた」(堀さん)

 改装可能な賃貸物件を集めた不動産検索サイト「DIYP」を運営する村井隆之さん(35)は、多くの入居者を紹介した。

「築年数を経た物件を改装して貸すには費用がかかりますが、建物の価値が高まる改装をしてもらえるなら、オーナーにも利点があります。入居者が事前に改装計画を出せば安心ですし、物件が常に活性化するのでは?」

 入居者は手間をかけてこだわりの空間を作るため、「愛着があり、ずっとここにいたい」と契約を更新し続ける人が多い。自由すぎる“出世マンション”、唯一の落とし穴は、居心地のよさ?

【関連リンク】
不動産検索サイト「DIYP」 http://diyp.jp/

週刊朝日  2014年6月27日号