5月末でTBSを定年退社したアナウンサーの吉川美代子さん。退職直前の5月下旬に行った作家の林真理子さんとの対談では、“女子アナ”に先輩として厳しい一言を残した。
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林:私、吉川さんがお書きになったこの本(『アナウンサーが教える愛される話し方』)を読んで、感動しちゃいましたよ。最初のころ「俺の原稿を女の声で読ませるな」って言われたんでしょう。そういう苦難の道を歩んできて、定年まできちんと勤めたわけですよね。TBSで女性の管理職は初めてだったんですか。
吉川:いま、局長なんですけど、女性で局長は初めてです。
林:TBS初の女性ニュースキャスターも吉川さんでしょう? 83年から「JNNおはようニュース&スポーツ」を担当したのですが、全国ネットのニュースを女性が読むのは、TBSでは画期的なことでしたね。
林:報道人のトップランナーとして走ってきたわけですね。
吉川:私が失敗したら「やっぱり女はダメだ」となってしまいますから、ものすごいプレッシャーでした。入社5年目に念願の報道担当になりましたが、入社当初から夢の中でも遊びにいっても、考えるのは仕事のことばかり。1日24時間、1年365日、ほんとにストイックに仕事のことしか考えてませんでしたね。
林:そういう時代を生きてきたから、「あ、読み方間違っちゃった」なんて言ってるアナウンサーを見ると……。
吉川:新人時代は週に2本くらいしか番組がなくて、ひとつの仕事に向けてコンディションを整えたり準備をしたりする時間があったんですよ。いまはテレビのバラエティーをやってラジオ番組をやって、さらに報道の深夜勤務もロケもある。しかもCSやBSの番組も担当するので、十分な準備期間がないのも事実です。ただ、それでも1日5分は時間をつくれますよね。「その5分間になんで発声練習をしないの? 新聞を読まないの?」って思うんですよ。
林:前にお目にかかったとき、「女子アナ」という言葉は大嫌いとおっしゃってましたが。
吉川:はい。「女子アナ」って呼ばれたことがないんです。
林:そんなこと言われない世代ですよね。
吉川:「女子アナ」という言葉には、意識していなくてもどこか軽く見下すような響きがあって嫌いです。「女子アナ」と呼ばれて浮かれていないで、プロとしての技術を磨いてほしいのです。
※週刊朝日 2014年6月13日号より抜粋