昨年、風疹が数年ぶりに大流行したことは記憶に新しい。現在は落ち着いているが、風疹ワクチン接種の必要がある成人はいまだ475万人いると推計される。職場や公共施設での感染が多く、妊娠初期に胎児に感染すると重い障害をもたらすこともある。

 岡山県在住の川井千鶴さん(39)が長女・七海さん(10)を出産したのは、2004年、風疹が流行した年だった。川井さんは妊娠10週目で風疹にかかり、胎児にも感染したために七海さんは先天性風疹症候群児となってしまった。川井さんは1975年生まれ。中学校時代に集団で風疹予防接種を受けている年代のはずだが、予防接種の記録もなく、かかったかどうかの記憶も定かではなかった。妊娠時に産婦人科で受けた風疹の抗体検査で「抗体がない」と告げられたが、その直後に「気をつける間もなく」風疹にかかってしまったという。

「娘は現在10歳ですが発達レベルは2歳児です。早産で生まれ、最初は難聴だけと思われたのが、風疹性網膜症、肺動脈狭窄(きょうさく)、聴覚障害、てんかん、多動、自閉症などさまざまな障害が次々と重複して起こり、現在も24時間介助が必要な状況です」(川井さん)

 現在、川井さんは「自分たちと同じ思いをする人をなくしたい」と、患者会「風疹をなくそうの会『hand in hand』」の岡山代表として活動している。

 日本産科婦人科学会・周産期委員会委員長で、長崎大学大学院産婦人科教授の増崎英明医師は、産婦人科でワクチン接種を勧めるべき対象者として、(1)不妊治療をしている人(2)妊婦の夫や同居の家族(3)出産直後の母親で抗体価(抗体の量)が低い人を挙げている。

 妊娠した時点で抗体がないことが判明しても、前出の川井さんのように妊娠中は本人にワクチンを打つことができないため、「抗体価が低い妊婦さんには、できるだけ人ごみへの外出を控えるようアドバイスすると同時に、パートナーや同居家族への風疹ワクチン接種を勧めています」と増崎医師は語る。

週刊朝日  2014年6月6日号より抜粋