警視庁の広報課長は、キャリア組の「出世コース」のひとつとされている。元警察庁長官の国松孝次氏、原子力規制庁の初代長官で警視総監も務めた池田克彦氏など、名だたる警察OBが通ってきた道だ。

 2012年8月、このポストに女性が初めて着任して話題を呼んだ。現職の小笠原和美氏(42)。慶応義塾大学総合政策学部の1期生で、警察庁が採用した6人目の女性キャリアだ。

 栃木県警捜査2課長や大阪府警外事課長などを経て、11年4月からは福島県警でナンバー2の警務部長として復興支援にも取り組んだ。身長148センチは女性の中でも小柄。それでも同期の男性陣からは「どんな厳しい現場でも、動じず結果を出す。すごいタマだ」と、一目置かれている。

 そんな小笠原氏。もちろん、ただの広報課長ではない。「歌う広報課長」なのだ。持ち歌のタイトルは「まさかの坂道」。

 振り込め詐欺の新名称が「母さん助けて詐欺」などに決まった昨年5月、「より身近な犯罪と受け止めてもらうために、歌の力を借りよう」と思い立った。まず、自ら作詞。自己流で歌って録音し、同庁音楽隊長にメールで送った。

「その翌日には、五線譜に落とし込んでもらいました」(小笠原氏)

 ♪知っていたのに まさか私があんな電話に だまされるなんて
 ♪ニセ電話で親心利用する これが犯人のだましの手口 話題にしてよ「母さん助けて」

 新名称のお披露目イベントの前座で初披露すると、評判に。昨年7月には、都内で開かれた音楽隊ファミリーコンサートで、タレントのコロッケとデュエットもした。「上手ですね!!」とコロッケも絶賛する歌いっぷりだったという。広報課がCDに録音し、都内全署に配布されたほか、同庁ホームページでも聴ける。

 そんな活動の一方、昨年に都内で発生した母さん助けて詐欺は2168件(昨年11月末現在)。前年同期より345件も増え、被害総額は約60億円に上った。なかなか歯止めがかからないが、歌う広報課長は意気盛んだ。「息子世代に注意喚起をしよう」と、アップテンポな2曲目も完成しているとか。

 目指すは歌手デビュー?

「あくまで被害撲滅の一環です。多くの方に親しんでいただき、自分にも起こりうると思ってもらえれば、啓発になりますから」

 さらりとかわされた。

週刊朝日 2014年1月31日号