書店に並ぶ「黒子のバスケ」の単行本 (c)朝日新聞社 @@写禁
書店に並ぶ「黒子のバスケ」の単行本 (c)朝日新聞社 @@写禁

 12月5日午後3時、東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスにほど近い路上。封筒を郵便ポストに投函しようとしていた男は、数人の捜査員に囲まれた。男は、ポストに伸ばした手を慌てて引っ込め、手袋を外してジャンパーに隠したが、すぐに事情を察したのか、こう言ったという。

「ごめんなさい。負けました」

 威力業務妨害容疑で警視庁に逮捕されたのは、大阪市東成区の派遣社員、渡辺博史容疑者(36)。調べに対し、「一連の事件はすべて一人でやりました」と全面的に認めた。「一連の事件」とは、週刊少年ジャンプ(集英社)で連載中の高校バスケ漫画「黒子のバスケ」を巡る連続脅迫事件だ。

 最初の舞台は、作者の藤巻忠俊さんが在籍していた上智大学だった。2012年10月12日夜、東京都千代田区の四谷キャンパスで、「藤巻忠俊が憎い」「漫画をやめろ」などと書かれた脅迫文と、硫化水素が発生している容器が見つかった。

 その6時間ほど前、ネット掲示板に「喪服の死神」なる人物が登場。「こんなことをした理由は一つだけだ! 上智大OBの今をときめくマンガ家の藤巻忠俊が憎いからだ」などと犯行を「告白」した。

 この事件では、けが人はなく、報道は読売新聞、産経新聞など一部に限られ、紙面の扱いも小さかった.

 それが不満だったのか、10月26日に再び、ネット掲示板に書き込みが出現した。「喪服の死神が疑問に答えます」と銘打ち、Q&A形式で犯行を語るものだ。

Q:上智に置いた液体とか何?

A:12Lの〈トイレ用洗剤〉入りの容器に〈塗料〉を大量投入した。もちろん大量の硫化水素の発生を意図したもの。(カッコ内は原文では実際の商品・原料名)

Q:どうなればお前は満足するの? 望みは何?

A:藤巻に謝ってもらえればいい。謝ってくれたらすぐに警察に自首する。

 といった具合だ。その後、「黒子のバスケ」関連のイベントの会場に脅迫文が送られ、中止に追い込まれるケースが相次いだ。

週刊朝日 2014年1月3・10日号